掲載日:2010年01月08日 特集記事 › バイクの足回りメンテナンス
記事提供/2009年4月1日発行 モトメンテナンス No.82
【編集スタッフの実践 その2】
エルシノアのようなボールレースタイプの車両でも、ステム周りのメンテナンスを行う際には、サービスマニュアルでは、「専用工具を使用せよ」との記述がある。しかし専用工具がなくとも手持ちの道具で代用できることも多いのだ。
アンダーブラケットに残ったボトムコーンレースを新品に交換するために除去する。レースはステムシャフトに圧入されているので、まずはバイスにしっかり固定。このとき直接ステムシャフトを挟むのではなく、傷をつけないように、バイスのアゴはアルミ板を介して挟み込むようにしたい。
タガネを使ってレースを直接叩いて外す。このとき、タガネの刃先はレースのみを狙うこと。誤ってステムシャフトにタガネを打ち込まないように、刃先を寝かせ気味にして打ち込むがポイント。錆で固着しているケースも多いが、その場合は、打ち込むポイントを少しずつ変えると良い。
数回の打ち込みでボトムコーンレース・ダストシール・ダストシールワッシャーがブラケットから分離。オフロード車の場合は、このようにゴム製のダストシールが入っている。基本的に再使用はできないと考えておいた方が良いだろう。この後、ステムシャフト根元の錆は綺麗に落としておく。
用意した新品のボトムコーンレースをプレス機で圧入。もちろんレースを押すポイントは、ボールの接触面であってはならない。内側端面を寸法の合ったパイプで押す。端面は断面積が小さく、ずれる可能性があるので必ず寸法が合致したものを使う。
ここでの注意点としては、一気に圧入しないこと。途中でダストシールの位置を確認しながら、慎重に圧入する。大きくずれることはそうないはずだが、レースで噛みこんでダストシールを切ったりしてしまったら、残念なことになる。プレス機の有無に関わらず、圧入は徐々に行うのが基本。
次は車体側の準備。まずフレームに残ったボールレースを裏から叩いて抜く。サービスマニュアルでは「ボールレースリムーバー」なる専用工具の使用を推奨するが、不用なアクスルシャフト等で代用可能。抜いたレースが飛ばないように布を被せておく。
同じ方法で下側のレースを抜いたら、取り付け部をキレイに洗浄する。特にオフロード車は、下部から泥の進入しているケースが多いので念入りに洗浄する。もし錆を発見した場合は、不織布シートを使って大まかに錆取りをし、レースを打ち込む面のコンディションを極力良くしておく。
新しいレースを打ち込む前に、ヒートガンを使ってヘッドパイプを温めるのもの良い。こうすることでステムの口が僅かに膨張し、レースの打ち込みが楽になるのだ。ここでヒートガンを使うときは、一箇所に熱が集中しないように、ヘッドパイプ周辺をまんべんなく温める。温め過ぎにも要注意。
レースの打ち込み作業で心配なのは、斜めに打ち込んでしまうことだ。それを防ぐために、ヘッドパイプ内側にシリコングリスを少量塗布しておく。すべりが良くなれば、多少斜めに打ち込んでしまっても、レースがガッチリとフレームへ食い込んでしまうことも少なくなるはずだ。
いよいよレースの打ち込みだ。この作業もサービスマニュアル上では専用工具で行われているが、要はボールレースが傾かないよう平均的に打ち込めさえすればいいので、ここでは鉄の角材を使って「面」で押し込んでいく。レースと角材をピッタリと合わせ、ゆっくり打ち込めば大丈夫。
P37の写真で分かるように、ボールレースはヘッドパイプとツライチではない。専用工具なら最後の「座」まで打ち込めるが、端面押しの角材ではムリ。そこで今回は、長いボルトとナット、そしてベアリング打ち込み用のカラーを使ってレースを上下から締め上げて、「座」まで移動させる。
ヘッドパイプより少し長いボルトが手元にあれば用は足りる(ホームセンターで購入できる長ボルトでOK)。ナットをしっかりとレンチで固定しながら、徐々に締め上げていく。締め上げ作業の前に、角材で打ち込んだ上下のボールレースが均一に打ち込まれているかを確認すること。
最終的にボールレースがヘッドパイプ内の座面に到達したかを叩いて確認する。ここでもヘッドパイプ内径に合わせたコマを使用すること。打ち込み音の変化でもわかるが、圧入前にヘッドパイプ端面からレース端面の距離を測っておくのも一つの手だ。
いよいよレースにボールを載せる。その前に、レースにはたっぷりとグリスを塗りつけておく。ここで使用するグリスには、高負荷に耐えうるものを選ぶのはもちろんだが、耐水性にも考慮したグリスを使いたい。車両メーカーによっては、ステアリングヘッド専用のグリスが用意される場合もある。
新品のスチールボールをレースに並べる。エルシノアは上下で18個ずつ、計36個のボールを使用した。サービスマニュアルには「1個でも悪い物があれば全て交換する」との記述があることから、上下で必要な個数を全て用意しておこう。交換しない場合でも、磨耗や損傷は必ずチェック。
最後にフックレンチでステアリングトップを締め付ける。一杯に締め付けた状態でアンダーブラケットを左右に回し、重くないところまで緩める。この後、トップブリッジとフォークを仮組みしたら、センターから5°~10°の範囲にて、自重でステムが動くか確認。動かない場合は組付けミスを疑う。
打ち込みに使った金属ハンマー、ボールレース取り外しに重宝したPB製のタガネ、「ボールレースリムーバー」の代用品は不用なアクスルシャフト。別になんら特別な工具ではない。今回、アンダーブラケットへのレース圧入にプレス機を使用したが、慎重にやればプレス機でなくても可能だ。
これまで何度も誌面に登場してきたヒートガン。今回も出番は少なかったが大いに役立った。熱収縮チェーブヘの加熱はもちろん、「アルミ+鉄」の組み合わせ部品の分解・組み立て、樹脂加工などなど、あると作業の幅が一気に広がる便利なアイテム。編集長はHAKKO製を長年愛用。
圧入に使ったアルミの丸棒、レース締め上げ用の長ボルトは大き目のホームセンターなら手に入るだろう。打ち込みで使ったベアリングプッシャーは本来の用途以外でも何かと便利なアイテム。以上で分かるように専用工具がなくても、作業の方法が明確であれば、手持ちの道具で代替は可能なのだ。つまりは工夫次第、ですね。
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