掲載日:2010年03月04日 試乗インプレ・レビュー
構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
ここのところ、国内メーカーの新型車はどちらかというと“豪華装備”を持つ車種が多い。排気ガス規制に対応するためのインジェクション化と平行して各部の電子化が進み、高性能で利便性の高いモデルが増えてくると、贅沢なことに「シンプルなバイクも良かったなぁ」と思えてくるから不思議なものだ。そのためか、そういったモデルは各メーカーに少数ずつラインナップされている。今回取り上げる「CB223S」は、前述のカテゴリに含まれる、シンプル志向の1台だ。オーソドックスなスチール製ダブルクレードルフレームに、ホンダの定番とも言える空冷OHC単気筒エンジンを搭載。クラシカルな外観とスタンダードな車体構成を与えられたモデルとなっている。今年はCB223Sのデビュー3年目となり、カラーリングを変更するだけでなく思い切った価格の引き下げも行われた。シンプルで扱い易さを重視したマシンであることから、バイクライフに対する「ベストマッチアイテム」と言うキーワードを与えられているCB223S。果たしてその目論見どおりの魅力を生み出せているのか、試乗インプレッションを通じて確かめてみたい。
はっきりと書いてしまうと、CB223Sはパフォーマンス面で特にスペシャルな側面を持ったモデルではない。搭載している空冷OHC単気筒エンジンは、これまでXR230やFTR223などにも採用されてきた定評あるパワーユニットだが、「物凄くパワーがある」や「特殊なメカニズムを内蔵している」といった分かり易い何かは持っていないし、フレームやサスペンションも“このモデルだけ”と言った装飾を与えられていない。そんなCB223Sを走らせて面白いのか、と問われると、これがなかなか面白いのだ。確かに数字で見るスペックは、同クラスの他モデルに比べて抜きん出たものではないが、街中を走っている分には必要にして十分なもの。むしろ、過度なパワーや装備が無い分気軽で、もっと言えばバイクとして“素の感覚”が強く伝わってくるのだ。ライダーのアクションに対して、溢れ出る馬力、高性能なサスペンションやブレーキシステムがサポートしてくれない代わりに、「ここまで曲げられる」「こうやれば速度が出る」といったバイクからのインフォメーションが分かり易い。しかもこの情報が過敏に発せられるのではなく、ほど良い密度で届けられるので安心してバイクとの対話に没頭出来るのだ。
特に足回りの味付けは秀逸に感じる部分。こういったクラシカルな出で立ちのモデルに多いツインショックではなく、サスペンションストロークの長いリンク式モノショックを採用しているため、コーナーリングでの安定感が高く、18インチホイールのクイック過ぎない寝かし込みとの組み合わせで、肩の力を抜いて心地の良い旋回を楽しむことが出来る。また、FTR223を兄弟車に持つモデルだけにダートへの適応性も高く、河川敷のようなフラットな未舗装路程度なら気にせず入り込んで行く事が出来た。車体が軽いこともあって意外なほど走れてしまうのは、このバイクの隠れたアビリティだろう。
それらの性能を通して強く実感したのは、CB223Sが気軽なバイクである、ということだ。悪路への対応力はそのまま路面状況への寛容さにつながり、ベーシックで乗り手の意思疎通を重視した乗り味は、多くのライダーを快く受け入れてくれるもの。これまで幾多のバイクを乗り継いできたベテランにとってCB223Sは少々物足りないかもしれないが、これからバイクを乗り始めるビギナーや、一度離れてバイクに戻ってきたライダーにとって、分かり易く楽しめるマシンとしておすすめしたい1台だ。パフォーマンスは決して華美ではないが、「バイクに乗る」というのはそういった要素が全てではない。CB223Sなら、余分な装飾を剥ぎ取った下にあるバイクに乗る喜びを、やさしく伝えてくれるだろう。
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