掲載日:2010年03月25日 試乗インプレ・レビュー
構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
カワサキといえば「公道走行」に根ざした製品作りで定評がある。たとえそのバイクがスーパースポーツであったとしても、譲れない実用性と利便性だけはきっちりと押さえ、軽すぎないハンドリングもどこかビッグバイク的重厚感を残す。こうした公道走行メインのユーザーを大切にした、カワサキ流のバイク作りにシンパシーを抱く熱烈なファンが多いというのも頷ける。
今回ご紹介するこのNinja ZX-6R(以下、ZX-6R)も、その歴史を遡れば公道走行を重視した旧モデルに突き当たる。しかし、この現行モデルへと続く変遷は、ひたすらパフォーマンスを追い求めその活躍の舞台をサーキットへとシフトするもので、それはもしかすると「カワサキらしさ」を少しずつ削ぎ落としていく作業だったと言えるのかもしれない。そのような意味で、先鋭化を極める他社製ミドルクラス・スーパースポーツに勝るとも劣らないサーキット・パフォーマンスを追求した結果がこのZX-6Rであり、「ロードも楽しめる正確無比なトラックツール」というキャッチコピーには「サーキット専用」的な割り切りが強く感じられる。
しかし、バイクは乗ってみなければ分からないものだ。果たして、純粋にサーキット・パフォーマンスを追求したこのZX-6Rに、「カワサキらしさ」は息づいているのか。試乗を通して検証してみたい。
実は、ミドルクラス・スーパースポーツの試乗は一番気を遣う。出発すると半地下の駐車場を出て、予測不能な動きをする人ごみを縫うように路地を進み、やっと幹線道路に出ることができる。冷えたエンジンに半クラッチをあてつつ、微妙なアクセルと前後ブレーキ操作。僅か数十メートルだが、この区間にはスーパースポーツの不得意科目がぎっしりと詰め込まれている。ところが、始動直後で自動的にエンジン回転数を高めているとは言え、クラッチミートしたZX-6Rは599ccのスーパースポーツとは思えないトルクで車体をグッと押し出した。リアブレーキとアクセルだけで自在にスピードを制御できるほどの豊かなトルクはまさにビッグバイクのそれで、エンストを警戒する左手の出番もないまま、いとも簡単に幹線道路に抜け出てしまった。
その扱い易さに気を良くしてゲートをくぐった都心の高速道路。そこは公道上で唯一、ZX-6Rの速さの片鱗を垣間見れるステージかもしれない。スロットルにまったく遊びが無いかのように、右手の動きにダイレクトにレスポンスするエンジン。開ければ開けただけパワーが呼び出せるフィーリングは、オーディオのボリュームを操作している感覚に近い。特に豊かな中速トルクは絶品で、シフトチェンジせぬまま何度も何度もその盛り上がりを味わってしまったほどだ。高速回転するリアホイールを指先でつまむように制御できる繊細なリアブレーキも都市部の走行ではありがたい。一方、フロントブレーキの効きは素晴らしいものの、タッチがやや曖昧だと感じる。制動力の立ち上がりが比較的穏やかなこととあいまって、パッドがディスクをくわえ込むポイントが分かりづらいのだ。しかし、これは多分に「好み」の問題であり、ライダーや走行条件によって評価は変わってくるはずだ。
そして高速道路出口。ほぼ360度回り込むランプをワインディングにみたててブレーキングから車体を倒し込んでみるが、イメージ通りに曲がってくれない。その後たどり着いたワインディングで、「もしや…」と思い前後サスペンションの各ダンパーを緩めてやると、やはりその走りが大きく変化した。フロントブレーキのリリースにあわせて車体を倒すと、フロントタイヤから強い旋回性が発揮され、リアタイヤはそれに呼応するかのようにグリグリと内向力を高める。旋回中の安心感が大きいため、調子に乗ってラフにバンクすると狙ったラインよりもさらに内側に車体を導いてしまうほどだ。こうなると、ワインディングを楽しむマシンとしての味わいが際立ってくる。公道ゆえフロントのハードブレーキはそこそこにして、薄くリアブレーキを当てつつコーナーに進入。すると「どうにでもなる」と思えるほど軽く、そして良く曲がる。サーキット走行を前提とした前後足回りだが、せっかくフルアジャスタブルなのだから、公道を走行する場合は是非ともややソフトなセッティングを試してみて欲しい。安定感を残したハンドリングや、回りこんだコーナーが待ち遠しくなる豊かなトルクにカワサキらしさを感じ、曖昧だと思っていたフロントブレーキもいつしかしっくりとくる。前後足回りのセッティング次第で、公道におけるZX-6Rの評価は大きく変化するに違いない。
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