掲載日:2010年04月22日 試乗インプレ・レビュー
構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
インジェクション特有のドンツキもなく、スムーズに駆動力が立ち上がるマナーの良さ。ことエンジンに関しては、誰にも優しい乗り易さと速さを兼ね備えた優等生バイクが当たり前となりつつある。しかし、全てのライダーがそれを望んでいるのだろうか? 始動したら最後、パワーやトルクも凄いが、その扱いにはちょっとコツを要する。こういう一癖あるバイクにニヤリとしてしまうライダーも多いのではないだろうか。
今回試乗した2010年モデルのZ1000はまさにそんなバイクだ。ビジュアルとライディングフィールに「インパクト」を求めた結果、外装パーツはもちろん、エンジンをはじめとする全てのコンポーネンツが新設計。101.5 kW (138PS)/9,600 rpm、110N・m(11.2 kgf・m)/7,800 rpm(EUR仕様)という数値も立派なものだが、重視されたのはスペック表に現れない「刺激と快感」だったという。このご時世で大型ネイキッドをゼロから新造したカワサキの心意気も凄いが、完成したZ1000の程よくバランスした荒々しさと躾の良さも絶妙。このモデルの注目ポイントだと言えるだろう。
足つきもよくアップライトなポジションだからといって簡単に騙されてはいけない。野太い排気音で唸るZ1000は、まるで右手でスイッチをオン・オフしているかのような素早いレスポンスで地面を蹴リ上げるからだ。エンジンを源とする強大なトルクがドンッと立ちあがり、発進はもちろんミッションが何速にあろうともその力強さに変化はない。エンブレ時のバックトルクが強いことと相まって、加速であろうと減速であろうとシフトするたびにギクシャクしてしまう。久々のジャジャ馬…それがZ1000のファーストインプレッションだった。
しかし、珍しく空いていた首都高速環状線を走るうちに、それが間違いであることに気づいた。スムーズに走らせるにはどうすればよいのか…。Z1000との対話を試みながら、いつしか自然とスロットルの遊びを取ってから丁寧に右手を開けるようになり、コーナー立ち上がりの加速では舐めるようにリアブレーキを当て、チェーンが張り替わるショックを緩和している。思い起こしてみれば、教習所で習うようにビッグバイクとは本来丁寧に扱うべきものだ。近年の乗りやすいバイクに慣らされ、自分の操作が雑になっていたことをZ1000が教えてくれた。変速の作法さえ守ればあとは躾が行き届いているので気遣いは無用だ。安心してレブリミットまで回せるし、ギャンギャンとヒステリックにシフトせずとも、高めのギアにホールドして右手だけで走っても十分に速い。敢えて3,000rpmぐらいの低回転域までドロップさせておいて、そこから右手をパカッと開けてトルクの盛り上がりを味わうのも楽しい。
ハンドリングは直4らしく基本的な安定性が高いが、重心はやや高く感じる運動性重視の設定だ。コーナでは前乗りでも後ろ乗りでも変なクセがなく、幅広いライダーに合わせられる懐の深さも垣間見える。力強い低速トルクと十分なハンドル切れ角により街中で扱い易く、Uターンすらも得意科目。ただし、高速域ではメーター真上に顔がくるぐらいの前乗り前傾ポジションの方が軽快でニュートラルなハンドリングが得られるようだ。また、腰を入れずとも上半身のアクションだけで十分な旋回性を発揮するため、意外にも長距離走行における疲労感は少ない。ブレーキはZRX1200 DAEGなどとも共通する近年のカワサキらしい味付けで、フロントの制動力は強力そのものだがその立ち上がりは穏やか。動きの良いフロントフォークとのマッチングも良好だ。リアは制動力とコントロール性に優れ、市街地走行でも使いやすい。一方、細かな点で残念な部分も。居住性があまり良くないシートとレスポンスの悪いウインカーだ。特にウインカーに関しては、これだけ運動性が高いモデルなのだからスイッチを倒した瞬間に点灯するタイプが必須の装備だと思うのだが…。
誰でも乗りこなせるほどイージーではないが、無作法をしなければ極めて従順に言うことを聞いてくれる駿馬、それがZ1000だと言えるだろう。
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!