絶版フラッグシップの誘惑 ~Bimota HONDA HB1 1976~

掲載日:2010年04月16日 特集記事    

記事提供/2009年11月24日発行 絶版バイクス5

プロトタイプ第1号モデルが1974年頃に組み立てられ、イタリア国内はもとより当時のヨーロッパ中で話題になったビモータHB1。海外でも大変珍しいモデルで、フルキット仕様のコンプリートバイクは現存数台(3~4台程度)と言われている。その中の貴重な1台を日本のエンスージャストが所有していた。フルカウルを装着するとレーサーそのもの。エンジンを見なければMVアグスタを思わせる仕上がりであり、逆に後期のMVフォアは、このHB1を意識したかのようなデザインでもある。エンジン関連のスペシャルパーツも凄い!! 驚きだ。

 

日本製4気筒エンジンを搭載したスペシャルバイクは数多く存在するが、イタリアのビモータ社は、数あるコンプリートバイクの頂点に君臨する素晴らしき造り込みとテクノロジーを持っていた。♪

取材協力/シオハウス Phone 03-3854-3200

 

会社が設立された当初は、空調設備機器のコンストラクターとしてスタートしたイタリアのビモータ社。同社設計部門の責任者であり、バイクエンスージャストだったマッシモ・タンブリーニは、1965年モデルとして極少数生産されたイタリアのMVアグスタ社製4気筒ロードモデル「MV600」のエンジンを搭載したカフェレーサーを製作。このマシンが後にビモータ社の社運を賭けるバイク事業転向への礎となっている。

 

その後、ビモータ社では、本業の空調設備事業を推進する傍らで、取り引き先のチューブメーカーや溶接ベンダー、そして鋳物メーカーにバイク用スペシャルパーツ製作を依頼。ホンダのOHC4気筒エンジンを心臓に持つ 「プロトタイプモデル」を製作した。

その独創的なデザインとマシン作りが注目され、ビモータ社はバイクメーカーとして進路変更。そして、CB750のOHCエンジンを搭載するための「HB1キット」を僅かな数だが発売した(20台近くのローリングシャシーキットが製作されたといわれる)。当時のイタリア国内で750ccの新車を3台以上買えたのがキット価格!! コスト度外視の価格設定には誰もが驚き、「珠玉」を購入できたのは、一部の富豪だけだった。

 

ここに紹介する「ビモータHB1」は、まさしくその当時のフルキットが組み込まれた世界的に希少な1台である。本誌3号巻頭特集の「400cc企画」では、ビモータCB400Fをリポートしたが、マシンオーナーは同一人物。熱狂的なビモータファンであることは、読者ならご察しいただけると思う。

 

この撮影までは、海外の雑誌でしか見たことが無かったHB1。眼の前で見るそのインパクトは、強烈そのものだ!! 後のビモータ製シャシーの象徴的テクノロジーのひとつ「ドライブシャフトセンターの延長上にあるスイングアームピボット機構」は採用されていないが、そのテクノロジーを予感させるに十分な造形美を持つのが、HB1のフレームレイアウトである。

 

「ダブルクレードル」ではなく、敢えて「ダイヤモンドフレーム」を採用しているのは、大きく且つ決して軽くは無いホンダフォアを抱きつつも、可能な限り「車高を下げる」ための策ではないかと思われる。バックボーンを含め、要所はストレートパイプで構成されている。しかも薄肉太径パイプを取り回すことで、フレーム剛性を確保しているようだ。角断面スイングアームと太いスイングアームピボットシャフトを採用し、この時代にすでに締結剛性を追求。前後キャスティングホイールはタンブリーニデザインのビモータ製で、その製造は、あのカンパ二ォーロ社が担当した。まさにイタリアンバイク・テクノロジーの集結である。

 

注目のホンダフォアは、76年型CB750F-Ⅱ/ヨーロッパ仕様車に搭載されたもので、エンジン打刻「B750GE」がその特徴だ。以上のことから、このモデルには76年当時、新車から降ろされたエンジンが搭載されているのではないかと思われる。冷却フィン付きドライサンプ用オイルタンクをエンジンの前方に配したレイアウトも特筆ものだ。マスの集中化を目指しつつ、効果的にエンジン油温を下げることができるが、渋滞は考慮されていない様子。まさに 「ロードゴーイングレーサー」そのものなのだ。

 

メーターはホンダ純正の日本精機製。文字盤をホワイトパネルにしている。トップブリッジはチェリアーニ製。ブレーキマスターはフォンタナ製レーシングタイプだ。   クリップオンハンドルを取り付けるためのヘッドライトステーがユニーク。ライトステーはベルリッキ改。   マス集中によってリアブレーキマスターがクラッチカバーと共締めになっている。クラッチカバーアウターにもクーリングフィンが付くが、このデザインの元祖がこれだ。
クリップオンハンドルもビモータ製。トマゼリ製可変ポジションタイプは、このパーツを参考にしたのか?   オイルエレメントカバーを兼ねた冷却フィン付きのドライサンプオイルタンク。走行中は確実に冷えるが、渋滞時はどうなのだろうか? 当時、日本国内でもこのパーツのコピー品が発表されたが、発売されたか否かは不明だ。   フォンタナ製ディスクローターはマグインナーに鋳鉄アウターを組み合わせる。キャリバーもフォンタナ製でマグネシウム鋳造品だ。18インチのマグホイールは、ビモータ社でデザインし、カンパ二オーロ社にて製造された。
リアディスク&キャリパーもフォンタナ製。この時代にリアローターを小径にしていたのはイタリアンバイクだけだ。   70年代の世界耐久シーンで、数多くのチームにレプリカされたダウンフォースを得るためのテールカウル。ドゥカティNCRの耐久レーサーにも、このデザインが採用された。まさにCB750Fのデザインルーツもここにある。   テルミニョ一ニ製の手巻きのカーブドメガホンマフラー。いつしかこのマフラーが奏でるサウンドを聞きたい!!
オイルタンクに導かれるオイルホースは最短距離で接続される。オイルタンクの位置が下がったことで、ドライサンプポンプの吐出効率は幾分高まったのかも知れない。   リアショックには英国のヘイゴン製が装着されていたが、恐らく組み立てられた当時はフォンタナ製もしくはマルゾッキ製が装着されていたのではないかと推測できる。   スイングアームは角断面構造ながら、角パイプを組み合わせて溶接したものではなく、鈑金製作で角断面にした構造物を採用。ピボットシャフトも太く、締結剛性を高めている。

 

 

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