掲載日:2010年07月29日 試乗インプレ・レビュー
構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
ホンダのVFRシリーズは、ホンダが持つ最高の技術を投入したフラッグシップモデル。一時国内向けラインナップから姿を消していたものの、2010年3月に「VFR1200F」として復活した。VFRシリーズは技術的な意味でもトップモデルと位置付けられており、最高峰の2輪レースであるMotoGPで培われた技術はもちろん、高度な電子制御技術などが投入されている。そのVFR1200Fに、さらなる先進技術を投入したと言われれば、俄然興味が沸くと言うものだ。今回紹介する新しいVFR1200Fに採用された“デュアル・クラッチ・トランスミッション”は、自動変速装置の一種。4輪ではすでに実用化されており、オートマチックとマニュアルの良いところを組み合わせた機構であると言う。現時点でもマニュアル的な操作を楽しめるオートマチックは存在するが、これがそういったものと同様のものなら、技術の頂点を極めたV4ツアラーに“世界初”との鳴り物入りでわざわざ付け加える必要はない。ホンダがVFR1200Fにこれを投入するには、それ相応の意味があるはずだ。先進のフラッグシップ・ツアラーがデビューしてから4ヶ月、満を持して追加された「VFR1200F デュアル・クラッチ・トランスミッション」(以下VFR)の実力を、試乗インプレッションを通して早速確かめてみたい。
「次の世代がやってきた」と言うのが新しいVFRのファーストインプレッションだ。何しろ、シフトペダルもクラッチレバーも無いが、乗った感触はスポーツモデルそのもので、既存のオートマチックとはまったく雰囲気が違う。しかし、操作は何度確認してもオートマチックなのだから、バイクとしての世代が違うとしか言いようがない。これまで、マニュアルミッションの雰囲気を再現しようとしたオートマチックモデルは多いが、それはもう過去になってしまった。同時に「両手と両足を使ってコントロールするマニュアルシフトが、スポーツバイクの必須条項である必要も無くなった」とは、少し言い過ぎだろうか。
しかし、それほど衝撃的だったのだ。すべての基本となるDモードと、スポーツ走行を想定したSモードは、操作方法だけを見るとビッグスクーターなどと変わらない存在に思えるかもしれない。スロットル開度と速度、そしてエンジン回転数に応じて自動的にシフトが切り替わっていくバイクは、確かにこれまでも存在した。しかし、そういったオートマチックモデルとの違いは、このシフトチェンジがベルトなどによる自動変速では無く、2輪では世界初となるデュアル・クラッチ・トランスミッションによって行われている言うこと。詳しくは特徴にて後述するが、VFRはあくまでもライダーの操作の一部を自動変速などで肩代わりしているだけで、中身はマニュアルミッションのスポーツバイクそのもの。ライダーの右手に合わせて返ってくるレスポンスも、マニュアルミッション搭載車と同じダイレクトなもので、これまでのオートマチックミッション採用のスポーツモデルとは一線を画している。ギアチェンジをライダー自らが行うマニュアルモードも、これまでのバイクとは一味違う。シフト操作はライダーに委ねられるが、クラッチ操作は不要で(そもそもレバーがついていない)、VFRが電子制御にて担当する。シフトペダルのかわりに左ハンドルのスイッチでギアを変更すれば、正確なクラッチミートを自動的に行い、的確なシフトチェンジが行える。操作方法こそ違うが、そこから生じる動きや感触はマニュアルミッションのバイクとまったく同様だ。
確かに、スイッチだけで行うシフト操作は、乗りはじめこそ通常と異なるため戸惑ってしまうかもしれない。しかし、操作自体が簡単なので慣れるまでそう時間は掛からないだろう。むしろ、一度マスターしてしまえば、デュアル・クラッチ・トランスミッションの恩恵が非常に大きいことに気付いてしまうはずだ。自動操作による疲労低減はもちろんだが、自分が行うべき操作が肩代わりされることで、他の動き(例えばブレーキングなど)に集中することができるのは、このバイクならではの利点だろう。また、VFRが行うクラッチワークとシフト操作は精密極まりないもので、ショックレスなコントロールはベテランライダーどころかレーシングライダーでも足元に及ばないレベル。今回タンデム側での試乗も体験したが、シフト時のショックでライダーとパッセンジャーのヘルメットがコツンとあたるようなことは皆無だった。ショックレスなのに、マニュアルミッションと同等の性能を実現したのが、このデュアル・クラッチ・トランスミッション。このパフォーマンスはまさに未体験の領域で、通常のオートマチックでは再現出来ないだろう。車種によっては複雑なコントロールを実現しているものもあるが、VFRと比べてしまうと、今後は“あくまでオートマチックの中で”と限定が必要となる。そして、意外かもしれないがスポーツ性能も納得の行くレベル。シフトチェンジは走りの醍醐味の一つであるが、それがスポーツ走行の全てではないはずだ。クラッチ操作は省略されるが、その分ホンダV4が持つエキサイティングな性能をじっくりと楽しめる。選ばれたベテランだけでなく、多くの人がより手軽に楽しめる性能を手に入れたVFRは、より身近なフラッグシップに生まれ変わった。VFRの開発者の方が何度も繰り返したキーワード「誰もが楽しめるスポーツバイク」は、このデュアル・クラッチ・トランスミッションによって完成したと言えるだろう。
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