掲載日:2010年09月06日 特集記事
2010年3月6日発行 月刊ガルル No.293より記事提供
テストライド/小林直樹 写真/長谷川徹 まとめ/小川浩康
読者のデイリーユースに近い乗り方から、そのマシンの限界性能を引き出したアクションライディングまで、オフロードマイスター・小林直樹がワンデイツーリングでスーパーテネレを徹底試乗。市街地、高速道路、ワインディング、林道と、あらゆる路面を走破したからこそ分かる乗り味を、ガルル読者に披露。スーパーテネレを存分に味わうための調理法がここにある!
第1回、第2回パリ・ダカールラリーをXT500で制したヤマハ。その後もパリダカ参戦は続き、XT600テネレを開発。テネレ砂漠にちなんだネーミングを与えられたパリダカマシンは、高速化するレースに合わせてツインエンジンを搭載。XTZ750スーパーテネレへと発展していった。そうしたパリダカマシンのイメージを受け継ぎつつ、大陸横断を実現できるロングツーリングマシンとして登場したのが、このXT1200Zスーパーテネレだ。
ロングツーリングでの操縦安定性を重視したエンジンは、最適な吸入空気量を実現するYCC-T(Yamaha Chip Controlled Throttle)で制御され、トラクションコントロール機能で路面を問わない操縦性を実現。さらにD-MODE切り替え機能がスポーティな走行を楽しめるSモードと、ツーリングや市街地での扱いやすさを重視したTモードにエンジン特性を変更してくれ、ABS、前後連動ブレーキシステムUBSが、軽量とは言えない車体を受け止めてくれる。プレストコーポレーションにより日本に導入される第1便はFirst Editionと称し、サイドバッグ、スキッドガード、エンブレムが装備される。
ヤマハらしいシャープなデザインで、スパルタンな印象だったけれど、目の前にしてみると思ったよりも大きく感じた。どんな走りになるか、楽しみにしていたんだ。
トルクとパワーで車重は感じないが
軽快さは少ない市街地走行
またがると腕が伸びきり、樽を抱えるような感じにできず、懐が大きくなってしまう。それがマシンを大きく感じさせる。ただ足着き性はいいので、ゴー&ストップで重さが気になったり、足を着く場所に気をつかったりすることはない。
低速トルクはアイドリングで走れるほど太い。けれど、ファイナルギヤが高すぎて、アイドリングのままでもタタタッとスピードが乗ってきてしまう。エンジンにピーキーさはないけれど、さすがに1速のままでは吹け上がってしまい、2速にシフトアップするとさらにスピードが出てしまう。だから1速でクラッチ操作が必要になってくる。けれど、そのクラッチ操作が重い。エンジンパワーがあるのでクラッチ容量も大きくなり、それがクラッチ操作を重くしている。油圧クラッチを採用しているけれど、これはタッチと遊びを一定にするための装備で、事実、今回のテストでは切れ方は一切変わらず、重さも変わらなかった。いつもは市街地でも指2本がけを多用するけれど、今回は4本がけでしっかり操作した。
ブレーキは、ガツンと握るとタイヤがキュッと鳴るけれど、すぐにABSが作動し、絶対にロックしなかった。レバーのストロークが長く、少しグニュっとしたタッチだが、利きには一切不満がない。それはタイヤのグリップ力も貢献していて、市街地ではつねに強烈なグリップ力を感じることができた。そうしたグリップ力はマシン挙動もマイルドにしてくれて、クッション性のよさがマンホールや舗装の段差を吸収し、乗り心地はよかった。ただし、車線変更はスッという感じではなく、狭い市街地ではパワーも生かしきれない。それと、このスーパーテネレにはモード切替が装備されているが、その変化は高回転域より低中回転域で体感しやすい。トルクは変わらないが吹け上がる感じが変わり、スポーツモードでは低中回転の吹け上がりが早くなって高回転まで引っ張りやすい。市街地では吹け切らないように、ツーリングモードに設定するのがオススメ。ラフな操作をしてもマシン挙動が暴れなくなるからだ。 |
| 梅雨の最中に敢行した今回のワンデイツーリング。小雨、曇り、晴れ、霧と、天気はめまぐるしく変わったものの、気温は1日中夏を思わせる暑さだった。1日でロングツーリングをしたような状況となったが、高速移動が多かったこともあり、総走行距離は約400kmまで伸びた。 |
意のままに走り続けられる 高速道路でも接地感が感じられ、剛性感のある乗り味を楽しめた。前後輪が同じグリップ力で、マシンの真ん中に乗っているような安定感がある。スピードレンジが上がるほどマシン挙動にシャープさが増し、高速道路でのレーンチェンジはクイックにできる。それでいてワダチや段差といった外乱に振られることもない。シートもすべりにくく、不快な振動もないので尻が痛くなりにくい。 高速域ではマシンにかかるGも増えて、サスストロークもより落ち着いてくる。高級サルーンのような乗り味で、走行中に目線を上下させられることがないから、楽に長時間走り続けることができる。 |
| 今回のダートは締まったフラットダート、サンド、ウッズ、そしてちょっとしたマディと、マシンの大きさを考慮すれば、なかなかバリエーションに富んだ設定。そうしたダートの総距離は約30km。割合的には少ないが、限界性能まで試せたと思っている。総燃費は13.7km/Lにとどまったが、これはダート区間の燃費8.5km/Lが足を引っ張った結果だろう。旧スーパーテネレが18~20km/L、ほぼ同じ排気量のXJR1300が13~16km/Lということを考えると、15km/L程度はキープするだろう。 |
エンジンパワーも堪能できる。高回転がストレスなく回るので、6速ホールドのままでも加速していける。それでいて6速から4速へのシフトダウンも受け付けてくれるので、そこからの加速は大排気量らしさを大いに体感できる。アクセルコントロールだけ、シフトワークを駆使する、そのどちらのライディングスタイルにも対応するから、高速道路は意にままに走ることができる。長距離を一気に駆け抜けたり、長時間走り続けたりしても疲労度は少なく、高速移動の快適さは群を抜いた完成度に感じられた。
倒し込みやすさのおかげで峠での
走りは予想以上に痛快
車重があるので、前後方向へのマシン挙動は動きすぎるように感じられる。けれど横方向への挙動には逆にヒラヒラ感があり、クイックなマシンコントロールのしやすさになっている。体を使ってリーンインすれば、重さを感じることなくスッとマシンが倒れ込んでいく。そしてタイヤグリップの良さが発揮されて、それ以上倒れ込むの防いでくれる。マシンを戻していく時も、アクセルを開けて体を戻していけば、スーッとついてきてくれる。コーナー進入時のブレーキングではノーズダイブするけれど、それが前輪のタイヤグリップをつかみやすくしてくれるので恐怖感はない。ABSのおかげでガツンとかけてもロックせず、コーナー途中でブレーキを足していってもロックしない。つねにタイヤが回り続けていくから、斜めにドリフトしているような感じで曲がっていける。大排気量はアクセルを開けなくてもトルクを使える反面、マシン挙動はマイルドになる。けれど、それはアクセルコントロールを受け付ける幅の広さとも言え、乗りやすさや扱いやすさになってくれる。3速ホールドのまま中高速コーナーを駆け抜けると、自分のイメージとおりにマシンコントロールでき、予想以上の軽快さを感じることができる。ただし、タイトコーナーではスピードレンジが低くなり、市街地と同じマシン挙動になり重さを感じてしまう。
オンロード寄りのタイヤパターンだが、マシンを直立させていれば予想以上のダート走破性を発揮してくれる。水しぶきから車速の速さがイメージできるはずだ。
トラクション性がよくフラットダート オンロード寄りのタイヤパターンだけど、マシンを直立させていればグリップ力は悪くない。トラクション性もよく、フラットダートならしっかりとマシンを前進させることができる。ただ、前輪がワダチやギャップに取られると、マシンコントロールが一気に難しくなる。タイヤがラウンド形状になっていることもあり、路面をグリップするタイミングが分かりにくい。いつ食いついて、いつ食いつかなくなるかが予想できず、ハンドルが切れた時にマシンがどこに行くかが分からない。 |
| フラットダートをある程度のスピードで駆け抜ける。こうしたシチュエーションは、スーパーテネレの走りの気持ちよさを存分に味わえるステージとなる。 |
トルクが太く、エンストの心配はないけれど、ハイギヤードかつクラッチが重いので、トコトコ走りもやりにくい。でも、トラクションコントロールのおかげで、リヤスライドする心配はない。ラフにアクセルを開けてしまっても、リヤタイヤがスライドする前にエンジンがモーっと回らなくなる。それでいてエンストすることはないから、前後輪は回り続け、コーナーを確実にクリアしていける。さらにABSがダートでもロックさせないから、オーバースピードになっても対応できる余地がある。ハンドル切れ角もあるので、旋回性もいい。だから中速域で走れるフラットダートは、かなり気持ちいいんだ。
それでも林道を走るには事前のチェックが欠かせない。足着き性がいいとはいえ、またがったままバックするのは難しい。Uターンにはかなりのリスクが伴うから、枝道に入るのはもちろん、ピストン林道も避けるべきだろう。マシン自体に一気にバランスを崩すような不安定さはないけれど、1人でのリカバリーが難しい局面は250クラスより多いと言えるからだ。
トラクションコントロールオフで
テールスライドを楽しめる
トラクションコントロールをオフにすればタイヤグリップに打ち勝つパワーを引き出せるから、テールスライドはやりやすい。ダートではオンロード寄りタイヤのほうがグリップを抜きやすく、一度抜いたら同じ感じでスライドしてくれる。マシンの重さも荷重になるから、お釣りがこなくなるんだ。 でも、ウイリーは難しい。トラクションコントロールオンだとエンジンが吹け上がらない。オフにしてもフロントまわりの重さとハイギヤードのせいで、回転を上げないとトルクを生かせない。しかし、回転を上げるとパワーが出すぎ、一気にめくれ上がってしまう。 |
| 斜面に対して真っ直ぐアプローチできれば、トラクションのよさが発揮され、意外なほどの走破性を披露してくれる。とはいえ、リスクを回避するには、かなりのテクニックが必要だが。 |
トラクションコントロール、ABSといった機能が、ライダーに危険なマシン挙動とならないように制御しているように感じられる。それがアクションライディングのしにくさになっているけれど、落ち着いた乗り味になり、ライダーに不安を与えない特性になっているように思った。
見た目の大きさに反してシート高は低く、身長170cmもあれば不安なく乗れるだろう。シート座面は広いが、車体幅を狭くしているので、足着き性はいい。身長170cm、体重70kgのおれでも足着き性に不安を感じることはなかった。ハンドル切れ角はあるけれど、ハンドル幅は広く、懐が広くなるので取り回し時に重さを感じさせる。市街地での押し引きも、なるべく避けたいところだ。ポジションはシッティング、スタンディングのどちらもリラックスしていて、ステップバランスを取りやすい。ただし、そのコントロールが崩れると一気にバランスも崩しやすい。そうした時にすぐ足を出せるから、シッティングのほうがおすすめだ。サイドケースは軽く、ほぼハンドル幅と同じサイズ。荷物満載でなければ、装着していても取り外していても操作性は変わらない。
トラクションコントロールは吹け上がりを防止し、後輪を空転させない。そしてABSは状況を問わず、ロックさせない。ライダーのテクニックをカバーしてくれるので、ダートで怖い思いをしないで済むのがいい。それとヘッドライトが明るく、夜間走行は快適だった。気になったのはハイギヤードなギヤ比。トルクはあるけれど、それを低速域でコントロールするのが難しい。ツーリングマシンとしては欠点にならないけれど、ダートで遊びたいおれには物足りなさを感じてしまう。
高回転のパワーはおれの手にも余るほどある。だから高回転まで引っ張ってシフトアップするより、早めにシフトアップして余裕を感じながらスムーズに乗るほうがいい。高いギヤ比は、かなりハイスピードに向けた設定で、実際に速いペースをキープして走り続けても疲労感は少なかった。ポジションの楽なオンロードスポーツバイクといった感じで、高速道路とちょっとしたダートは快適に走破できる。加速性がよく、車重がある割りにはフラフラしないから、長距離や長時間の走行が苦にならないんだ。サイドケースに荷物を詰め込んで、タンデムでロングツーリングに出かけてみたくなるね。
■サイズ = 全長2,255×全幅980×全高1,410mm
■ホイールベース = 1,540mm
■最低地上高 = NA
■シート高 = 845~870mm
■総排気量 = 1,199cc
■エンジン型式 = 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒
■ボア×ストローク = 98.0mm×79.5mm
■最高出力 = 80.9kW(110ps)/7,250rpm
■最大トルク = 114.1N・m(11.6kg-f)/6,000rpm
■圧縮比 = 11.0:1
■燃料供給装置形式 = フューエルインジェクション
■燃料タンク容量 = 23.0L
■装備重量 = 261kg
■変速機形式 = 6速リターン
■Fブレーキ = 油圧式ダブルディスク
■Rブレーキ = 油圧式ディスク
■Fタイヤサイズ = 110/80-R19MC 59V
■Rタイヤサイズ = 150/70R17MC 69V
■カラー = ビビッドパープリッシュブルーカクテル5、シルバー3
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