掲載日:2010年12月28日 試乗インプレ・レビュー
構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
2010年の10月末に発表されたVT400S。このシリーズは「カジュアル・ロードスター」を開発コンセプトに掲げ、同年の春にVT750Sが先行してリリースされている。水冷V型2気筒エンジンは空冷バイクさながらにフィンの造形が美しく、容量は控えめのティアドロップ型フューエルタンクからシートへの流線型、右2本出しのマフラーなど、率直に言えば全体のスタイリングはハーレーのスポーツスターシリーズを思わせるデザインだ。
しかし、スポーツスターもVT750Sも、共に大型免許の取得という大きなハードルが待ち構えている。また、普通二輪の免許で乗れる車両にはこの手のスタイルはラインナップしていないため、他のクルーザータイプをベースに大幅なカスタムをするしか方法がなかったのだ。そういう意味で、VT400Sの登場は多くのライダーが待ち望んでいたと言えるだろう。では、その乗り味はいかがなものなのか、早速試乗インプレッションを試みた。
シートに跨るだけで、すぐにカジュアル・ロードスターの開発コンセプトは飾り言葉ではないことがわかる。タンク後方からシート前方に向かってスマートな流線型を描くデザインは、そのまま着座位置の車体幅を狭くする効果を引き出している。また、ステップは一般的なロードスポーツより前方に設置されているため、シートからの最短距離に足を付くことができるのも大きい。シート前方に座れば、168cmの筆者の足裏はベッタリと地面に付き、さらに万が一の時に踏ん張るだけのヒザの曲がりまで実現する。この安心感が大きなアドバンテージを生むことは間違いない。そういった意味ではスリムなタンクも一役買っている。スタイルを見て判るとおりロー&ロングな車格ではあるが、それでも駐車場での出し入れやUターンで苦労しない理由は、ハンドルの最大切れ角が大きいから。大容量タンクや倒立フォークの採用、スイッチ類の増加など、様々な理由でハンドルの切れ角が減少していく今時のハイスペックマシンたちに背を向け、単純に扱いやすさを求めたことはクルーザータイプのマシンにとって大きなメリットと考えて良いだろう。
もうひとつ特筆すべき点はコーナーでのステアリング特性が極めて普通であること。「普通であることを特筆」するのは気が引けるところでもあるのだが、直線番長よろしくまっすぐ走ることしか考えていないようなクルーザーは思いのほか多く、峠道で余計な気遣いが必要となるケースもある。ロードスポーツやネイキッドからクルーザーへ乗り換えを検討した時に、この部分で抵抗がある人も多いのではないだろうか。その点、VT400Sはスムーズに車体がバンクし、フロントタイヤはごく自然な動きで進行方向を指す。アクセルを開けながらコーナーを脱出していくと、バイクを自在にコントロールする快感はセパハンのスポーツバイクだけで味わえる楽しみではないということを、改めて思い知らせてくれる。直線だけでなく、山道でも気負わずクルージングできることが、遊びのフィールドをさらに拡げてくれるのだ。
一方であまりにコーナリングが楽しいからと、ついつい攻めたくなってしまうのだが、エンジンは水冷400ccクルーザー用のそれであるから、物足りないと感じる部分もある。高回転で気持ちが良い伸びを感じさせるエンジンではない。それでも、ギア比の設定が成せる妙なのか、信号待ちからの走り出しではスムーズにスピードに乗り、トントンとギアを上げていけるので、スポーツライディングを楽しもうとしないかぎり不満は感じなかった。
もうひとつ気になった点を挙げるとすれば、タンデム走行が辛いこと。右2本出しマフラーのさらに上に取り付けられたタンデムステップは、踏ん張りが利かないM字開脚状態。乗車定員を2名にするためだけにロングシートとタンデムステップを採用していると感じてしまうほどだ。この点に関してはメーカーも割り切っているのか、オプションパーツで純正のバックレストを2タイプも用意している。リアキャリアやサイドバッグもラインナップされているので、長距離やタンデムでのツーリングを考えている人は、オプションパーツを積極的に活用することをおすすめする。自分のスタイルに合わせて多少手を入れることで、使い勝手の良い一台に仕上がるだろう。
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