今夏、猛暑に襲われた日本列島。さすがに多くの人がバイクに乗るのをためらったのか、都市部でもライダーの姿が例年よりも少なかったように感じられた。しかし、そのような状況下で一際元気だったのがビッグスクーターに乗るライダーたちだ。考えてみれば、スクーターという乗りものはエンジンの熱をライダーに伝えないという優れた特徴がある。ほかのカテゴリのバイクにのるライダーたちが信号待ちなどでぐったりしているのに対して、スクーターに乗るライダーたちが元気であったのも頷けるというものだ。特にビッグスクーターともなれば、荷物の積載やウインドプロテクションに優れる機種も多く、前述の快適性も合わせてその多機能ぶりはまさに都市部最強の乗り物と言えるかもしれない。
だが、そんなビッグスクーターにも弱点がある。エンジンの熱を遮断しているということが仇となり、冬場は案外寒いのだ。また、風雨からライダーを守ってくれる大型スクリーンやレッグシールドは寒風をライダー側に巻き込む要因ともなり、足元や太腿に寒さを感じる場合も多い。無敵の万能性を誇るスクーターに惚れ込んでいるライダーも「この寒さはなんとかならないものか…」と感じているのではないだろうか。
さて、近年もっとも注目を集めた防寒アイテムといえば、それはなんといっても「電熱ウエア」である。バイクの車載バッテリーや携帯した電池から給電してヒーターを稼動、ウエア自体が発熱するためその威力は従来の防寒アイテムの比ではない。積極的に身体を温めてしまおうという、いわば「攻め」の防寒アイテムなのだ。今年こそ電熱ウエアを導入して、冬のビッグスクーターの快適化計画を実施しては如何だろうか?
十分な温かさと高い信頼性、そして豊富なラインナップを誇る電熱ウエアとして昨年より日本に正規輸入が始まった米国ツアーマスター社製の電熱ウェア「シナジー」。昨冬はビッグバイクのユーザーを中心にヒットしたアイテムだが、果たしてビッグスクーターとの相性はどうだろうか? 編集部では実際にツアーマスター・シナジーを着用して電熱ウエアの定番テストルート、富士山スカイラインをビッグスクーターで走行、真冬に近い状況で検証することにした。
ビッグスクーターと電熱ウエアの組み合わせを少々心配するのには訳がある。ビッグスクーターはジェネレーターの発電量に余裕がない場合が多く、バッテリーの容量も小さいことがほとんどだからだ。例えば、ツアーマスター・シナジーの長袖ジャケットライナーを使用した場合、もっとも高い温度でヒーターを稼動する“High”ポジションでは最大76ワットの電力を消費する。これで連続使用すればバッテリーあがりなどのトラブルを誘発しかねないが、果たして実際の走行状態ではどうなのか…。
今回のテストはスズキのビッグスクーター「スカイウェイブ」をテスト車輌として使用。ツアーマスター・シナジーのラインナップの中からジャケットライナーとテキスタイル(布製)グローブを同時に作動させることにした。グローブの消費電力は最大24ワットなのでトータルの最大消費電力は100ワットに達する。また、本当に厳しい条件で使用しないとテストにならないため、本来インナー用として開発されたジャケットライナーをアウターの重ね着無しで使用することにした。その下に着用したのは防寒性に乏しい薄手の長袖シャツとTシャツのみ。これで十分な温かさを感じられればツアーマスター・シナジーの実力は「本物」ということになる。最終到達地点である富士山スカイラインの新五合目は標高2,400メートル。10月初旬のこの時期、日中でも気温は1桁を記録することもあるという。
富士山スカイラインの起点に到着したのは丁度正午ごろのことだった。標高1,460メートルを示す案内板の前でジャケットライナーのファスナーを首元まで上げ、グローブを着用。途中で見た気温の表示板はすでに15度まで低下していた。走り出せば、走行風も手伝って十分に寒さを感じる状況だ。ツアーマスター・シナジーのテストは昨年に引き続き2回目となるが、相変わらずセッティングは簡単で好感が持てる。必要なアイテムを自由に組み合わせてシステマチックに使用できるツアーマスター・シナジーは比較的複雑な回路を持つが、コネクターは全てが色分けされており接続に迷うことがない。また、複数アイテムを使用する場合はコントローラーひとつで全てを集中コントロール可能。手先から上半身、下半身までフル装備したとしても「身体中が配線だらけ」という状況とは無縁だ。車載バッテリーと直結された給電コードをジャケットに接続すれば、使用する全てのアイテムに電源が供給される合理的なシステムとなっている。エンジンを始動し、いよいよコントローラーのスイッチをオン。すると僅か10秒ほどで心地よい温かさが身体に伝わってきた。
富士山スカイラインの起点を示すゲートをくぐり、いよいよ新五合目を目指し走り始めたのだが、ツアーマスター・シナジーの加熱性能が気温の低下よりも勝っているために一向に寒さを感じない状況が続く。コントローラーは“High” “Medium” “Low”と3段階に温度調節が可能なのだが、気温が10度以上ある状況では“High”は熱過ぎる。1合目に到達するはるか手前でもっとも弱い“Low”ポジションに切り替えた。その後も新五合目に向けて標高はどんどん上がっていき、3合目から4合目にさしかかるポイントでスカイウェイブの外気温計はついに11度に突入。新5合目の駐車場に到着した時点での気温はなんと9度だった。この状況でも温度調節の“High”を連続使用することはなく、途中“Medium”と“Low”の切り替えを繰り返したのだが、“Medium”でもやや熱いと感じられたため結局温度調節は“Low”ポジションに落ち着いていた。実は、ツアーマスター・シナジーの強力な温かさには秘密がある。それはウェア全体、グローブ全体にきめ細かく張り巡らされているマイクロカーボンファイバー採用のヒーターが遠赤外線を放出しているということ。そのため、いたずらに温度設定を上げなくともまるで温泉につかっているかのような温かさを感じることができるのだ。
前述したとおり、今回テストしたジャケットライナーとテキスタイルグローブの2アイテムを同時に“High”で連続使用すれば消費電力は最大で100ワットに達し、ビッグスクーターではバッテリーあがりなどの心配がある。しかし、思い出して欲しい。今回のテストではインナーとして使用すべきツアーマスター・シナジーのジャケットライナーを敢えてアウターの重ね着無しで使用していたのだ。その状態でも気温10度程度なら“Low”ポジションで十分な温かさを感じられたのだから、本来の使用方法で冬用のアウターを重ね着すれば節電効果の高い“Low”が常用のポジション、よほど寒い場合でも“Medium”ポジションで十分。体感温度に個人差はあるものの十分な温かさは節電にもつながるため、バッテリートラブルの心配は少ないと推察できる。事実、今回のテストでは合計9時間程度を費やして幾度と無くスカイウェイブの発進と停止を繰り返し、低い気温のなかで特に大電力を消費するセルモーターの作動が懸念されたのだが、回転が弱くなったり始動性が悪化したりといった兆候は全く見られなかった。あくまでも新鮮なバッテリーを搭載して補充電も十分になされていることが前提となるが、高効率のヒーターにより電力を浪費しないで済むという意味において、ビッグスクーターと相性の良い電熱ウエアだと感じた。
シナジーは電熱ウェアとしては後発商品だが、それだけに既存製品を研究し尽くして、それらの弱点を克服した製品となっている。テスト結果として、分厚いグローブの操作性など細かい部分に気になる点はあったものの、どの製品も温かさは素晴らしかった。気温一桁台、しかもアウター重ね着なしでもそう感じたのだから、日本国内のツーリングで温かさに不満が出ることはないだろう。輸入元のパインバレーでは実際にハードなテスト走行を繰り返し、その温かさと信頼性を確認した上で販売を開始、その自信の表れか、全てのアイテムには1年間の製品保証がつくという。
3段階に温度調節可能
シナジーが採用するマイクロカーボンファイバーは遠赤外線方式のヒーターだ。単純な電熱線による加熱と異なり、体の芯から柔らかな温かさを感じるのが特徴となっている。しかし気温が極端に低い場合など、状況に応じて一気に加熱したい時もある。その場合は3段階の温度調節で“High”を選択すれば約75度まで加熱可能。
付属品同梱のオールインワン
リーズナブルな価格設定ながら、シナジーの各アイテムには、コントローラーを含む付属品のほとんどが同梱され、購入したその日から使用可能だ。また、単品使用はもちろんのこと、複数アイテムを使用する場合でもコントローラーはひとつで集中コントロール可能。電源のオン・オフや温度調節などの操作感がよいというのも特徴だ。