1970~90年代の2バルブツイン、それもトップモデルのR100RSが新車と見まごうばかりの美しさで並んでいる。その多くが販売車両だ。この店の主は千石清一さん。タレントの島田紳助さんとともに『チーム・シンスケ』を結成し、鈴鹿8耐で活躍したレーシングライダーだ。
バブル期の1980年代末、ロードレースが華やかになっていた一方、努力と根性で8時間を攻める千石さんの姿はテレビでも放映され、多くの人に鈴鹿8耐の面白さを広めた。そんな千石さんにとってベストスポーツモデルがR100RS、中でも1986年に登場したモノサスペンションだ。旧来のツインサスペンションに比べてエンジンはマイルドだが車体は進化し、前後18インチの軽快なハンドリングが魅力だ。
「初めてBMWに乗ったのは1970年代中盤でした。昔はベテランが最後に乗る“あがりのバイク”というイメージでしたが、それは違います。本来のバイクのおもしろさ、楽しさを教えてくれる“始まりのバイク”です。きちんと整備したものは古くても壊れませんから」
すでにロードレースでめきめきと頭角を現していた千石さんは、低重心と縦置きクランクのフライホイールのジャイロ効果が生む吸いつくようなコーナリングに感銘を受けた。そしてBMWの実力はサーキットでも活かせるはず、と1983~84年には『ミントレーシング』からBMW R80改で鈴鹿8耐に参戦。コーナーではパワーに勝る4気筒マシンを追い回した。
「レースで分かったBMWの思想もたくさんあります。例えば左右で前後位置が違うステップのことなど」
鈴鹿の右コーナーでは常にオン・ザ・レールな一方、左の高速コーナーでは右に起き上がろうとする。それを抑えようとすると左側に軽くハングオンしていた。この姿勢に合わせてノーマルの左ステップが前進していたと気付いたのだ。サスペンションセッティングもサーキットでは効果がすぐに分かる。
「シャフトドライブは加速するとリアサスが伸びる方向に動く。これがフロントの接地感を増してくれる理由でもあります。だからチェーンドライブと同じつもりで、サーキットでリアを固くし過ぎると立ち上がりでリアサスが伸びきってリジッドになってしまいます。BMWのセッティングの基本ですね」
今では稀になった素性の良い車両を探し出し、なるべくオリジナルの状態を保ったまま、新車当時のパフォーマンスを得られるよう調子を整える。それは本来の“調律”という意味のチューニングだ。フォークオイルやタイヤ選びにも、“感じ”や“評判がいい”では選ばない。長い経験と理論から導かれた方程式を持っている。このあたりは千石さんが『神戸RSクラブ』のウェブで公開している。
オリジナルを大事にするから、ペイントや再メッキなどの処理はしない。だが車両の隅々まで磨きあげる。その美しさは、取材中にたまたま神戸ライダースクラブを訪れたビンテージBMW専門店『ボクサーショップ』の神宮司さんが「こんなにキレイなRSはまずないですね」と太鼓判を押すほど。そう言われた千石さんの嬉しそうな表情から、いかにバイクに愛情を込めて仕上げていることか、その想いが伝わってきた瞬間だった。
神戸ライダースクラブの設立は1990年だが、阪神淡路大震災の影響などで一度は閉店し、3年前に「自分の好きな車種だけを扱いたい」と、2バルブの専門店として復活。拠点はショールームとガレージの2ヵ所。千石さんが1人ですべてをまかなっている。
“修理屋ではなくセッティング屋”と千石さん。足周りやキャブレターの小さな設定で走りは様変わりする。「鈍感と思われがちなビング製キャブレターも実はシビア。同調をきちんととれば振動もなくモーターのように回ります」と、販売車両は完璧なセッティングを済ませる。通販はせず、遠方のお客さんには信頼できるショップを紹介する。納めたバイクがずっと完調でオーナーを楽しませてくれること、それが第一なのだ。一生乗れる2バルブボクサーを探しているなら、是非訪ねるべきショップだ。
神戸ライダースクラブ
ショールーム神戸
住所/兵庫県神戸市東灘区向洋町中6-9 神戸ファッションマート2F
定休/水曜・日曜・祝日
メンテナンスガレージ芦屋
住所/兵庫県芦屋市宮塚町9-5
定休/年中無休
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