自分が乗りやすければ
それがベスト
「ベストセッティングを教えてほしい」という人がいますが、それはいささか無理な相談です。たとえバイクが同じモデルであったとしても…。何故なら、走行条件がそれぞれ異なるからです。ライダーの体重、乗り方や好み、速度域や走る場所によっても変わってきます。誰かのベストセッティングがそのまま自分にとって最適であるとは限らないのです。サスセッティングに「正解」はありません。大事なのは「自分が乗りやすいと感じる」こと。それが貴方にとってのベストセッティングなのです。
セッティングの手順については前回解説したとおり。あとは実際にトライしてみるだけです。コツは最初に大まかな方向性を出していくこと。そのためには、アジャスターを大胆に強めたり、弱めたりしてみてください。ノーマルのサスペンションは極端にふってもハンドリングが危険なほど変わることはないので大丈夫。3段階ぐらい一気に変更すると、違いがよく分かるはずです。
直感を信じることも大事。悩みながらダラダラと乗っていると迷宮にはまってしまいがち。大概は最初のインプレッションが正しいことが多いようです。コースを決めて同じコーナーなどで違いをチェックすると効率的ですね。そして場数を踏むこと。いろいろなバージョンを試してみて、そのときの感覚を体に蓄積していくことが大事です。
いじるほどに分かってくる。それがサスセッティングの醍醐味なのです。
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TRIUMPH デイトナ675
デイトナ675はワインディングで気持ちよく走りを楽しめる仕様にしてみました。もともと欧米向けに作られているため、国産600クラスに比べるとバネレートが高めの印象。STD状態では特にリアサスが硬く突っ張った感じがあり、常にリアが高い位置にあります。そこでまずはリアのプリロードを大胆に弱めて、バイクの姿勢をフラットに持っていくのがポイント。次に路面が一定ではないストリートでは追従性を上げたいので、伸び側ダンパーを弱めてサスの戻りを良くします。するとピッチングモーションも速くなってくるので、圧側ダンパーで少し落ち着かせるとバランスが良くなります。スロットルのオン&オフだけでスムーズに姿勢変化を作れる仕様になり、コーナーも自然に曲がりやすくなりますよ!
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KTM 990アドベンチャーR
アドベンチャーRは市街地を軽快かつ安心して走れる仕様にしてみました。「パリダカ」を走破できる本格的な足回りを備えたマシンだけに、前後サスとも基本的にハードな設定。とにかく車高が高く大柄です。体重73㎏の自分でもサグは少なめなので、まずはリアのプリロードを大胆に全ヌキにして車高を下げます。街中で小回りを効かせたいのでフロント側も弱めて前下がりの旋回しやすい姿勢に。これに合わせて伸び側ダンパーも弱めて軽快感を出しつつ、車重があるので圧側ダンパーである程度動きを抑えて沈み込みのストロークを穏やかにします。STDに比べると全体的に車高が低く、マシンが小さくなったような印象に。見晴らしの良さや本来のダイナミックな乗り味を求めるなら、STD仕様もアリですよ!
| セッティングシートを作ろう! サスセッティングをする場合、このようなシートを活用すると確実で効率的。変更したアジャスターの値とそれによってどう印象が変わったかを、記憶が鮮明なうちに書き込んでおきましょう。どんなプロセスでセッティングしたのかが一目瞭然ですし、データとして保存しておけば、後でSTDに戻すことも簡単です。言葉は簡潔明瞭に、記号化しておくと便利です。たとえばH(ハード)やS(ソフト)、C(クリック)、L(ラップ=回転)など。上記データシート中に出てくる、「 L)H-17C 」であれば、圧側低速ダンパーが「最強から17クリック戻し」という意味。これをそのまま活用していただいてもけっこうですし、自分が使いやすいフォーマットを設計してみてもいいでしょう。
PDF形式のファイルをご覧になるためには、 |
走りがもっと楽しくなる
今回は編集部スタッフにも実際にサスセッティングにトライしていただきました。最初は戸惑いながら恐る恐るという感じでしたが、「走ってはいじる」を繰り返すうちにコツを飲み込んできたようで、最後は何も言わなくても喜々としてセッティングにいそしんでいたようです。「走りやすさが劇的に変わって大カンゲキ!」、「そういう方向性もあったとは…目からウロコですね」とのコメントも。最初はよく分からなくてもいいですから、皆さんもいじって遊んでみてください! そうそう、アジャスターの「強」「弱」の方向を間違えやすいので、最初は油性マジックなどでマーキングしておくといいですよ!
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