Text / Kentaro SAGAWA Photo / Satoshi MAYUMI 取材協力 /ライディングアカデミー東京
人間の本性と
向き合うこと
“スマート=smart”という単語には「キビキビした」「賢い」「きちっとした」などの意味があります。和製英語の“スマート=細身”とはちょっとニュアンスが違うようですね。バイクというと、昔はいくぶん粗野なイメージがあったかもしれませんが、現在では嗜好のものとして、社会的にもだいぶ認知されてきたのではないでしょうか。とりわけ大型バイクは大人が楽しむ趣味性の高い乗り物として、若者だけでなく中高年層やリターンライダーにも人気なのはご存知のとおり。
また、環境性能の面でも通常のクルマに比べて低燃費で駐車スペースもとらず、渋滞に影響されにくいなど環境負荷が少なく経済的なモビリティと言えます。
そんな素晴らしい乗り物であるバイクを、皆さんにより安全に楽しくカッコよく乗りこなしてもらいたい、という想いで「スマテク」を連載させていただいています。いつもはとかくテクニック面の話が多くなりがちですが、たまには安全マインドについてもお伝えできればと…。
さて、交通心理学の理論として、“リスク・ホメオスタシス”なるものがあります。これは「人は誰でも自分が許容できるレベルまでリスクを冒す」という考え方で、すごく乱暴な言い方をすれば「ドライバーはみんな限界ギリギリで走りたがる」ということ。
それは自分の感じる限界ですから、腕自慢は当然オーバースピードで走らせるし、トロトロ走りのおばあちゃんでも、それなりに頑張って走っている。バイクも同様で、テクニックが上達するほど、また高性能マシンになるほど、許容できるリスクが増えたと勘違いし、知らぬ間に危険な領域に入ってしまいがちなのです。
人間とはそういう生き物なのです。そこのところを常に心に留めて、自分と向き合いながら、日々のライディングを安全に楽しんでいただければと思います。一番確実な方法は「自分自身と約束する」ことです。カッとしない、攻めない、アクセルを開け過ぎない、と自分に誓う。事故を起こさない、人を傷つけない、家族を心配させない…それが一番スマートなこと。私はそんなふうに決めて走ろうと努力しています。どうしても限界まで攻めないと気が済まない人は、サーキットへ行くべきでしょう。それはそれで健全なスポーツですから、むしろ堂々と走りを楽しんでください。
好きなバイクを自分の思いどおりに、スマートに乗りこなすことは簡単ではありませんが、自分自身いつもそうありたいと願っています。皆さんはどう思いますか?
文/佐川 健太郎
| セーフティ・ライディングの 「認知」「判断」「操作」は運転行動のプロセスで、ライダーはこれを繰り返しながら走っています。安全運転講習などでよく使われるのでご存知の方も多いですよね。たとえば「信号が赤になったので止まる」という行動であれば、「信号が赤だ」→認知、「止まらなくては」→判断、「ブレーキをかける」→操作、が一連の流れです。事故を未然に防ぐためにできること。それは左図のようなことをトータル的に実践することではないでしょうか。 |
“アクティブ・セーフフティ”とは元来、ABSや前後連動ブレーキなどのデバイスによる安全性向上を意味するものですが、同時にライダー自身の判断力や運転技術を高めることもまた大事になってきます。試しに下の写真を見ながら、セルフチェックしてみましょう!
交差点 交差点で信号が青に変わるのを見計らって、左からすり抜けしてきたスクーターが飛び出してきました。対向車線の右折車は先に曲がってしまおうと焦っています。典型的な「右直事故」のパターンですよね。前方に駐車車両があるので、スクーターは急に車線変更してセンターに寄ってくるかもしれません。 |
| 市街地 軽バンの先に配送トラックが止まっています。まず軽バンですが、ウィンドウやバックミラー越しにドライバーがいないことが確認できます。トラックは分かりづらいですね。配送トラックは急にUターンすることがあるかもしれません。ウィンカーを出す保証はないので前輪の動きにも注目しましょう。 | カーブ 市街地にありがちな見通しの悪いカーブです。減速帯があるので事故が起こりやすい場所かもしれません。対向車が急に視界に飛び込んできます。左カーブの場合、出口付近でラインが膨らみやすく、センターラインを跨いできた対向車と接触するケースが多くなるので注意しましょう。 |
余裕を持って
走りましょう!
目線はコーナーの先まで見通せているか、息をこらえていないか、肩は上がっていないか、腕や手に力が入っていないか、ヒザはタンクに当てているか、ラインは正確にコントロールできているか、旋回中にブレーキ操作できる余裕があるか…などなど、走りながら冷静に自分と向き合える余裕を持ちたいものです。余裕があれば走りも楽しくなるし、自分のライディングを分析して、さらなる工夫もできますよね。さあみなさん、スマートに行きましょう!