プリロードを決めて
ダンパーで仕上げる
サスセッティングと言うと、何やら難しいものに感じている方が多いと思いますが、その理屈を知っていれば意外とシンプルなもの。大事なのはセッティングの「手順」を知ること、そして「感じ取る力」を磨くことです。
サスセッティングの手順ですが、「影響力の強いものから順に調整していく」のが基本となります。まず大筋を決めてから細かい調整をしていくという考え方で、最初に「プリロード」、そして「ダンパー伸び側」、「ダンパー圧側」という順番が一般的になります。
プリロードとはスプリングに対する初期荷重のことで、最初にどれだけバネが縮められた状態かを示します。バイクの基本的な姿勢を決めるもので、ライダーの体重によって調整します。これに対してダンパーは、サスペンションの動くスピードを調整するものです。前後への荷重移動がスムーズに行われているかを見て調整していきます。
簡単に言えば、プリロードはバイクの「姿勢」(高い・低い)を決める主役であり、ダンパーはその「変化」(速い・遅い)を制御するものと考えていいでしょう。調整は前後どちらでも、気になる方からセッティングして構いませんが、違いを確かめるためには1ヵ所ずつ大胆に調整するのがポイント。
まずは自分でいじって体感してみることから始めてみましょう!
| プリロードは「高さ」、ダンパーは「速さ」 プリロードはバイクの「静的姿勢」を決めるもので、停止時や一定速度で走行している時の車体前後の高さなどに影響を与えます。プリロードを強めればサスペンションは高い位置に留まり、弱めれば低い位置に沈み込みます。一方、ダンパーは「動的姿勢」をコントロールするのが主であり、スロットルのオン/オフによって起こる前後へ荷重移動の勢いに影響を与えます。ダンパーを強めればストロークスピードは遅くなり、弱めれば速くなります。 |
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①サグの確認
サスペンションが伸び切った状態からライダーが乗車して沈み込んだ量を測ることで、体重に対してプリロードが適正かどうか、おおよそ分かります。これを「リバウンドストローク」、または「サグ」と言い、フルストロークの3分の1程度が適当とされます。体重が軽く、この数値が少な過ぎる場合は、プリロードを弱めてストロークさせる方向にセッティング。乗り心地、路面追従性とも良くなり、安心感が出るはずです。サグを見るときは、リアの場合、アクスルシャフトとシートカウル定点までの距離を測ると簡単。フロントはインナーチューブにスケールを当てれば分かります。正確に測るためには車輪を地面から浮かせる必要があるので、2人1組で行いましょう。
②プリロード調整 プリロードは静的(定常走行時)に車体姿勢を決めるもので、サグを調整した状態からスタート。強過ぎると走行中に常に車高が高い感じになります。フロントはブレーキング時の突っ張り感、底付き感がないかチェック。リアは体重による調整がメインになりますが、加速時の突っ張り感やギャップ通過時の突き上げ感なども同時に見ていきます。 |
| ブレーキング時の姿勢に影響 フロントはリアに比べてバネレートが低く柔らかいため、車体姿勢だけでなくブレーキング時のフロント沈み込み量にも大きく影響します。ブレーキングによって適度なピッチングが出るまでプリロードを緩めていきますが、底付きしたり、レバーを握り込めない場合は強めます。ブレーキを強く急激にかける人ほど、プリロードは強める傾向になります。 |
③伸び側ダンパー調整 サスペンションが伸びるときの速さを調整するもので、スロットルのオン/オフによる車体の動的な姿勢変化に影響します。ほとんどのノーマルサスペンションの場合、その構造上伸び側を調整すると圧側にも影響するのが特徴。1次旋回でスムーズにフロントに荷重が移動するか、2次旋回でリアにトラクションがかかるかなどをチェックします。 |
| コーナリング中の接地感がキモ 基本的にダンパーが強過ぎるとサスペンションの動きが鈍くなり、跳ねたり重くなる傾向が出ます。逆に弱過ぎるとフワつくなど、いずれの場合も接地感が乏しくなるので、ライダーは不安を感じてしまいます。スロットルオフの1次旋回で不安を感じる場合はフロント側、スロットルオンの2次旋回で滑りそうな感じがするときはリア側に問題があることが多いようです。 |
④圧側ダンパー調整 サスペンションが沈み込む時の速さを調整します。伸び側に比べると影響力は少なく、最終的な「味付け」に使うと効果的。ストリートでは伸び側を弱めて路面追従性を良くする場合も多く、その分圧側を足してバイクの挙動に落ち着きを出していくのに使ったりします。ただし、強過ぎるとゴツゴツしたり、弱過ぎると腰砕け感が出やすくなります。 |
| 高荷重域でコシ感を出す 圧側ダンパーは中高速コーナーなど、旋回中に比較的高い荷重がかかるシーンで有効になります。圧側ダンパーを強めることで動的な高さを作っていくことも可能で、旋回中の適度な踏ん張り感やストロークに時間をかけられる、いわゆる「コシ感」を出すことが出来ます。逆に、雨天など滑りやすい路面では圧側をかけ過ぎるとスライドし易いので注意。 |
| 圧側は「低速」と「高速」の2系統 数年前からスポーツモデルの中には、圧側アジャスターに低速側(LO)と高速側(HI)を備えるタイプも出てきています。写真のデイトナ675も前後に2WAYタイプを装備。「低速」は通常の圧側ダンパーと同じ役割であるのに対し、「高速」は非常に高い荷重がかかった時に、チェックバルブが開放されてオイルロックなどを防ぐ仕組み。車高調整などを行わず、簡易的に動的姿勢を高める効果もあります。サーキット以外では標準位置にしておくといいでしょう。 |
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工具いらずの実戦向けアジャスター
KTMのオフ系頂上モデル、990アドベンチャーRは、STD比 + 55㎜のストローク量を持つWP製フルアジャスタブル・ショックを前後に備えるなど、そのまま国際ラリーにも出られるほどの本格的な装備が魅力。アジャスターも実戦的で、ダイヤルを回すだけで調整可能な、フリップアウトタイプの油圧プリロードアジャスターを採用しています。豊富なストローク量を生かし、ダイナミックな姿勢変化を楽しむコーナリングがKTMの魅力ですね。