限界を知ることで
安全マージンも増える
早いもので「スマテク」連載開始から1年が過ぎました。そこでこのレッスンでは、これまでを振り返りつつ、総括していきたいと思います。
「スマテク」は、私の今までのライダーとしての経験や2輪ジャーナリスト、ライディングスクール講師として培ってきたノウハウをまとめたものです。単なるテクニックではなく、安全に走り続けるためのマインドや上達のためのヒントになればと思っていますし、スマテクを通じて皆さんがバイクやライディングへの理解を深められ、より楽しく、スマートに乗りこなしていただけたら幸いです。
さて、今回のテーマは「限界」について。以前のレッスンでも、バンク角やブレーキングの限界について触れましたが、もう少し掘り下げようと思います。限界とはバイクの機械としての限界、すなわち物理学的な限界とライダーの技量やメンタル面からくる限界とがあります。
一定路面におけるバイクのバンク角は主に速度と旋回半径によって決まってきます。もちろんタイヤやサスペンションの性能も大きく関係しますが、いずれにしても物理的な限界はあります。問題はそれ以前にライダー自ら限界を作っている点です。たとえばそれは、緊張からくる「力み」によってステアリングの動きを押さえてしまうことなどです。バイクは車体を傾けることでセルフステアの作用が働き、ハンドルが切れてちょうどいいバンク角で、安定して旋回するように出来ています。それを腕力で押さえ込んでしまうと曲がらなくなるし、極端に行なえばバランス出来ず、転倒の原因になります。
また、ブレーキングではレバーへの入力の強さとタイミングによって限界は大きく変わってきます。ぬかるみを歩いているときを想像してみてください。そっとゆっくり体重をかけていけば坂道も登れますが、勢いよく踏み出せば簡単に足元が滑ってしまいます。それと同じで、どんなハイグリップタイヤを履いていても、ガツンと強くレバーを握れば前輪ロックして滑ってしまいます。
ただ、そうは言ってもつい調子に乗って深くバンクさせてしまったり、パニックブレーキをかけざるを得ない場合もあるでしょう。そんなときでも、予め限界近くのバイクの挙動を知っておくと心に余裕が生まれます。余裕は安全マージンを増やしますので、知っておいて損はありません。と言うよりも、積極的に限界を体験していただき、対処法を身につけて欲しいのです。
以下に限界近くのバイクが教えてくれる「サイン」について解説しましたので、参考にしてください。ただし、公道で限界を試すのはあまりにリスクが高いので、絶対にやめましょう。安全マージンの向上を目指すなら、あくまでも安全が管理されたクローズドコースでトライしてみてください。そしてご自身のセンサーである「感じ取る能力」を磨いていきましょう。
文/佐川健太郎