“白バイ流” 究極の安全運転テクニック
取材協力/千葉県警察本部交通機動隊

Lesson10/段差越え

掲載日:2011年01月14日 公道スペシャリスト“白バイ流” 究極の安全運転テクニック    

「白バイ流」安全の極意を学ぼう!

常に沈着冷静で威風堂々とした走り。そしてひとたび事件が発生すれば疾風のように現場に駆けつける…。「白バイ」は誰もが認める公道走行のスペシャリスト集団である。その極意とはいかなるものか。2009年度全国白バイ大会のチャンピオン、千葉県警の笹野巡査長を講師に迎え、ストリートを安全確実に走り続けるための考え方やノウハウをお伝えしよう。

Lesson10/段差越え
白バイ走法のここがキモだ!
Lesson10/段差越え

勢いではなく
トラクションで登る

白バイ大会の種目の中にはトライアル競技もある。従来はトライアル専用モデルを使用していたが、今年からは一般的なトレールモデルのXR230に変更されたため、セクション攻略の難易度は逆に高くなったと言える。トライアルでは操作系のタイミングに加え、いかに柔軟かつダイナミックに体を動かしてバランスをとっていくかがポイントになる。

 

白バイ隊員はスラロームや回避制動などのオンロード系の種目とともに、モトクロスやトライアルなどのオフロード系種目についても同じぐらい熱心にトレーニングに励んでいる。白バイは普段の取締り業務の中では、オフロードを走ることはほとんどない。それなのにオフロード種目を行うのは、より高い次元でのバランス感覚を磨くためだ。

 

「バイクはライダーが自分で安定を作り出しながら走る乗り物です。低速になるほど安定を失いやすく、その分ライダーがバランスを補正していく必要があります。トライアルや一本橋のように、ほぼ止まっているような場面では、ライダーの技量と感覚がとても重要になってきます。ライディングテクニックというと、ややもするとバイクの性能を引き出すことや高い速度でコーナリングすることばかりに目を奪われがちですが、実は自分自身のバランス感覚を鍛えることが最も大事だと思います」と笹野巡査長は語る。

 

バランス感覚を磨くことでバイクの特性もより深く理解することができ、いざというときの危険回避能力も高められ、結果として安全運転に結び付くという考え方だ。

 

今回のテーマは段差越え、トライアルで言うステアケースだが、ここでも高度なバランス能力が求められる。急な斜面を登り切る直前の写真を見れば、バイクとライダーがちょうどV字のように開いていることかが分かるはず。もし、ここでライダーがバイクにしがみ付くと後輪のトラクションが抜けてしまい登っていけないし、逆にライダーが後ろに反りすぎてもまくれてしまうだろう。スロットルワークと体のアクションを使って、いかにタイミングよくきれいに後輪にトラクションを与えていくかがカギ。滑りやすい路面ではなおさらだが、ヘタにパワー全開で登ろうとしても勢いだけでは滑ってしまうだけだ。オフロードで身につけたバランス感覚やトラクション感覚は、ロードでの走りにも必ず役に立つ。まずは小さな段差を見つけて、無理のない範囲で何回もトライしながら操作や動作の感覚を身につけていただきたい。

トライアルの基本ポジション。ステップ上に真っ直ぐに立って膝と肘を軽く曲げてショックを吸収。ニーグリップはほどほど。強く締めすぎると柔軟に対応できない(模範走行/黒森昌也巡査長)。

体全体でショックを吸収

トライアルの基本ポジション。ステップ上に真っ直ぐに立って膝と肘を軽く曲げてショックを吸収。ニーグリップはほどほど。強く締めすぎると柔軟に対応できない(模範走行/黒森昌也巡査長)。

段差を降りてくるシーン。スタンディングでバランスを取りながら、腕は伸びて腰はリヤシートからはみ出すぐらい大きく引いて後輪に荷重。まずは大胆なフォームを作るところから始めたい。

思い切り体を動かす

段差を降りてくるシーン。スタンディングでバランスを取りながら、腕は伸びて腰はリヤシートからはみ出すぐらい大きく引いて後輪に荷重。まずは大胆なフォームを作るところから始めたい。

ある程度の高さの段差を越えようと思ったら、まずは平地で十分に加速。段差に当たる直前は加速しながらやや腰を引き、ステップを踏み込んで後輪に荷重しトラクションをかけておく。

平地で十分加速

ある程度の高さの段差を越えようと思ったら、まずは平地で十分に加速。段差に当たる直前は加速しながらやや腰を引き、ステップを踏み込んで後輪に荷重しトラクションをかけておく。

フロントが斜面に当たった時点ではまだスロットルオン。ステップから立ちあがって両足で踏み込みつつ、上体をやや後ろに反らせてフロントの抜重とリヤへの荷重を同時に行う。

ステップを踏んで上体を反らす

フロントが斜面に当たった時点ではまだスロットルオン。ステップから立ちあがって両足で踏み込みつつ、上体をやや後ろに反らせてフロントの抜重とリヤへの荷重を同時に行う。

後輪が斜面に当たったらスロットルを緩める。ここで加速し続けようとすると捲れて失敗しやすい。ハンドルに腰を当てるぐらいのイメージで上体を前に引き寄せていく。

腰をハンドルに寄せる

後輪が斜面に当たったらスロットルを緩める。ここで加速し続けようとすると捲れて失敗しやすい。ハンドルに腰を当てるぐらいのイメージで上体を前に引き寄せていく。

前輪が十分段差の先に出たところでスロットルを戻しつつ上体も元のポジションに。スロットルを吹かしすぎると後輪が空転して登りきれなくなる。

スロットルを戻す

前輪が十分段差の先に出たところでスロットルを戻しつつ上体も元のポジションに。スロットルを吹かしすぎると後輪が空転して登りきれなくなる。

上体を後ろに引きつつ膝を曲げて前輪着地のショックに備える。すぐにパワーをかけられるように常に半クラは用意しておく。目線はだいたい2~3メートル先を見ているイメージ。

着地のショックに備える

上体を後ろに引きつつ膝を曲げて前輪着地のショックに備える。すぐにパワーをかけられるように常に半クラは用意しておく。目線はだいたい2~3メートル先を見ているイメージ。

無事クリア。段差を越えた直後の姿勢も大事で、車体が傾いていると滑って転倒しやすくなる。まずは小さな段差で繰り返し練習しながらスロットルや荷重のタイミングをつかんでほしい。

真っ直ぐ車体を立て直す

無事クリア。段差を越えた直後の姿勢も大事で、車体が傾いていると滑って転倒しやすくなる。まずは小さな段差で繰り返し練習しながらスロットルや荷重のタイミングをつかんでほしい。

取材協力
取材にご協力いただいたのは千葉県警察本部交通部交通機動隊訓練指導係の皆様。2009年は「全国白バイ安全運転競技大会」団体一部で総合優勝を獲得するなど、全国白バイ隊員の中でも強豪チームとして知られる。
講師 プロフィール
講師 笹野裕也巡査長
千葉県警察本部交通部交通機動隊訓練指導係所属。「第41回全国白バイ安全運転競技大会」において個人総合優勝、千葉県警を団体一部優勝に導いた。マラソンを先導している白バイの凛々しい姿に憧れて現職を志す。プライベートではツーリングを楽しむ根っからのバイク好きでもある。愛車はCB1300SF。千葉県出身。
解説者 プロフィール
解説 佐川健太郎
モーターサイクルジャーナリストとして2輪専門誌等で活躍中。公道で役立つ実践テクからサーキット走行まで造詣が深く、白バイ関連の記事や映像も数多く手掛けるなど白バイテクについても精通。本誌ライテク講座「"スマテク"で乗りこなそう!」でも講師を担当した。ライディングアカデミー東京校長。MFJ公認インストラクター。

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