“白バイ流” 究極の安全運転テクニック
取材協力/千葉県警察本部交通機動隊

Lesson12/回避制動

掲載日:2011年02月14日 公道スペシャリスト“白バイ流” 究極の安全運転テクニック    

「白バイ流」安全の極意を学ぼう!

常に沈着冷静で威風堂々とした走り。そしてひとたび事件が発生すれば疾風のように現場に駆けつける…。「白バイ」は誰もが認める公道走行のスペシャリスト集団である。その極意とはいかなるものか。2009年度全国白バイ大会のチャンピオン、千葉県警の笹野巡査長を講師に迎え、ストリートを安全確実に走り続けるための考え方やノウハウをお伝えしよう。

Lesson12/回避制動
白バイ走法のここがキモだ!
Lesson12/回避制動

テクニック以前に
安全マインドが大事

クルマや自転車、歩行者など行き交う公道では、いつどこで危険に遭遇するか予測できない。また、高速道路やワインディングを走行中でも、急に目の前に落下物が現れるかもしれない。こうした緊急時に危険をいち早く発見し、認知判断して回避行動を起こせるかどうかが最も重要だ。回避と制動の2つのパートから組み立てよう。

 

白バイの訓練の中でも、ひと際印象的なのが回避制動だろう。決められた一定の速度で直線路を走行しつつ、光電管を通過した瞬間、信号の表示に従って右か左かに避けて安全に停止する種目である。

 

運転行動には「認知・判断・操作」という3段階のプロセスがあることが知られているが、回避制動ではまさにその行動が正確かつ速やかに行われているかが問われるのだ。

 

「交通事故のほとんどは認知・判断の誤りが原因となっています。事故を防止するためには、危険をできるだけ早く認知して、どう対処するのかを正確に判断しなくてはなりません。そのためには運転に集中することはもちろんですが、やはり速度を控えることが最も有効な手段となります。速度が高くなるほど、認知は遅れがちになり、誤った判断をしがちです。また、焦りから操作ミスも起こしやすくなります。常に危険を予測しながら走ることも大事ですね。制限速度を守って無理のない運転を心掛けてください」と笹野さん。ライディングの技術を磨くことも大事だが、それ以前に自制心と安全意識をしっかり持つことが先決なのだ。

 

回避制動の技術面についてだが、前半は瞬間的にバイクの向きを変えて回避するためのキッカケ作りがキモであり、後半では短い距離で確実に止まるための急制動のスキルが必要になってくる。まず、全体を通じて大事なのが下半身のホールド。バイクとの一体感がなければ、俊敏な動きもブレーキング時に体を支えることもできないからだ。回避では特に外足を使ってバイクを倒し込んでいくという。イン側ステップへの荷重や逆操舵によってもキッカケを作ることはできるが、それらは補助的なイメージだ。バイクの向きが変わり障害物を回避できたら、すぐに車体を起こして前後ブレーキをフルに使って減速して完全停止。後方の安全を確認して発進という手順だ。現行の白バイはABS装備なので基本的にブレーキロックはしないが、ABSを作動させると停止距離は伸びるため、できるだけロック寸前の状態をキープするのがポイントだ。

 

アクシデントは突然やってくるもの。万が一の場合にも冷静に対応できるよう、ぜひ身に付けておきたいスキルである。

白バイ大会の規定では50~60km/hの一定速度から回避を行う。スロットルを一定にする方法や規則的に数回ほど加速してリズムを取る方法など隊員によって様々だ。

速度一定で進入

白バイ大会の規定では50~60km/hの一定速度から回避を行う。スロットルを一定にする方法や規則的に数回ほど加速してリズムを取る方法など隊員によって様々だ。

これは回避直後からブレーキングしている様子。前後ブレーキをフルに使ってロック寸前の状態で急制動を行う。上体を安定させるためにもニーグリップは重要だ。

前後ブレーキで急制動

これは回避直後からブレーキングしている様子。前後ブレーキをフルに使ってロック寸前の状態で急制動を行う。上体を安定させるためにもニーグリップは重要だ。

直線路を速度一定で進んでいく。先に設置された回避方向を示すための信号に意識を集中しつつも体はリラックス。筋肉が緊張していると、信号に対する反応が遅れてしまう。

集中しつつリラックス

直線路を速度一定で進んでいく。先に設置された回避方向を示すための信号に意識を集中しつつも体はリラックス。筋肉が緊張していると、信号に対する反応が遅れてしまう。

上体はセンターに残したまま外ヒザでタンクを押し込んで倒し込む、リーンアウト的なフォームが特徴的だ。イン側ステップへの入力や逆操舵も補助的に使う。

外足で倒し込む

上体はセンターに残したまま外ヒザでタンクを押し込んで倒し込む、リーンアウト的なフォームが特徴的だ。イン側ステップへの入力や逆操舵も補助的に使う。

車体の向きが変わったところで今度は内ヒザを使って車体を起こしていく。アウト側ステップへの入力やハンドルを切ることで車体が起きる作用も補助的に利用する。

内ヒザで起こす

車体の向きが変わったところで今度は内ヒザを使って車体を起こしていく。アウト側ステップへの入力やハンドルを切ることで車体が起きる作用も補助的に利用する。

障害物(ポール)を無事回避できたところで、停止に向けてすぐに減速に入る。車体がまだ傾いている状態から、既にブレーキレバーに指がかかっているのに注目。

回避したらブレーキング

障害物(ポール)を無事回避できたところで、停止に向けてすぐに減速に入る。車体がまだ傾いている状態から、既にブレーキレバーに指がかかっているのに注目。

白バイが行う回避制動では、進入速度に応じて停止位置が決められている。速度が高ければ物理的に制動距離も伸びるため当然、停止位置も変わってくるからだ。

速度によって停止位置を設定

白バイが行う回避制動では、進入速度に応じて停止位置が決められている。速度が高ければ物理的に制動距離も伸びるため当然、停止位置も変わってくるからだ。

従来型の白バイはVFRベースが多かったが、2010年からCB1300STが採用され、徐々に切り換わっていく予定だ。赤灯やサイレン、無線などを搭載するため重量はかなりのものだ。

最新型はCB1300STベース

従来型の白バイはVFRベースが多かったが、2010年からCB1300STが採用され、徐々に切り換わっていく予定だ。赤灯やサイレン、無線などを搭載するため重量はかなりのものだ。

取材協力
取材にご協力いただいたのは千葉県警察本部交通部交通機動隊訓練指導係の皆様。2009年は「全国白バイ安全運転競技大会」団体一部で総合優勝を獲得するなど、全国白バイ隊員の中でも強豪チームとして知られる。
講師 プロフィール
講師 笹野裕也巡査長
千葉県警察本部交通部交通機動隊訓練指導係所属。「第41回全国白バイ安全運転競技大会」において個人総合優勝、千葉県警を団体一部優勝に導いた。マラソンを先導している白バイの凛々しい姿に憧れて現職を志す。プライベートではツーリングを楽しむ根っからのバイク好きでもある。愛車はCB1300SF。千葉県出身。
解説者 プロフィール
解説 佐川健太郎
モーターサイクルジャーナリストとして2輪専門誌等で活躍中。公道で役立つ実践テクからサーキット走行まで造詣が深く、白バイ関連の記事や映像も数多く手掛けるなど白バイテクについても精通。本誌ライテク講座「"スマテク"で乗りこなそう!」でも講師を担当した。ライディングアカデミー東京校長。MFJ公認インストラクター。

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