かねてより噂されていたSHOEIの最新フルフェイスヘルメット「X-TWELVE」がついに発売された。X-TWELVEは、そのモデル名からも分かるようにMotoGPライダーなどにも供給されるフラッグシップモデルであり、SHOEI史上最強の性能を実現しているという。果たして、優れた空力特性とベンチレーションを誇る名作「X-Eleven」をも凌駕するX-TWELVEはどのようにして開発されたのか。SHOEIのX-TWELVE開発陣、堀本隆行氏、田中晴雄氏、磯部栄治氏に語ってもらった。(インタビュアー:バイクブロス・マガジンズ編集部 渡辺)
渡辺:好評だったX-Elevenを超えるフラッグシップを開発するというのは大変な作業だったと思いますが、X-TWELVEの開発テーマなどを教えてください。
磯部:X-TWELVEはX-Elevenに対する要望を全てクリアした上で、空力やベンチレーションなどあらゆる部分で最高の性能を発揮することをテーマに開発した完全に新しいモデルです。例えば、複雑な動きをするシールド。これには曇り防止のPinlockシートの面積を拡大するとともに、密閉性の向上や風切音の低減、雨風の侵入などを防ぐという狙いがありました。Z6にも採用された前後にスライドしつつ上下に開閉する可変軸Wアクションの Q.R.S.A.(QuickRelease SelfAdjusting)システムとCW-1シールドを搭載することによってこれらの問題を解決しています。Pinlockシートが大幅に拡大されたことにより、シリコン製シールが視野に掛かることもなくなりました。また、あるレーサーからは、時速320km以上の速度でカウルから頭を出した時のヘルメットのブレを何とかして欲しいという要望もありました。X-TWELVEの極限まで磨き上げた空力特性はこうした問題を解決するための性能ですが、一般ユーザーにも大きなメリットをもたらすと思います。
堀本:口元のインテークにも要望がありました。時速300kmオーバーの世界では、シャッターが内側から組み付けられていると、締めていても風圧でたわんで空気が侵入してしまう。だからX-TWELVEではシャッターを外から組んであるのです。
磯部:あらゆる天候に対応する換気性能というリクエストもありました。微妙なシールドの曇りであってもレーサーの集中力を欠く原因になります。風洞実験を重ねながら、全ての吸入・排出口を理想的な位置に配置、シールド周辺を含めヘルメット内部の換気性能を徹底的に追求しました。
田中:X-Elevenとの比較で言えば、X-TWELVEがもっとも進化した点は空力特性です。X-TWELVEの空力は時速300kmオーバーという極限状態の安定性を追求したものですが、例えば、ネイキッドモデルに乗ってロングツーリングするような場合、レベルは違えどもライダーは同じ様な空気抵抗を長時間受け続けることになります。だからきっと、X-TWELVEの空力性能はツーリング時の疲労軽減にも貢献するはずですよ。少し高速走行してみれば、その違いはすぐに実感できます。
渡辺:形状がX-Elevenと比較するとかなり変化しましたが、空力性能、換気性能そしてデザイン性などを同時に追求していくのは大変だったのではないでしょうか?
磯部:かなり苦労しました。粘土でツルッとした帽体の形を作り、それを風洞設備にセット。あらゆる部分の圧力を測定しながら帽体の形状やベンチレーションの位置、スポイラーの形状などを決定していくのです。何日も風洞実験設備にこもって、少しずつ削っては測定。そうして実験を繰り返していれば、適切な形状や位置はおのずと決まってくるのですが、それだけでは製品のデザイン性を満足させられない。X-TWELVEの空力性能を決定的なものとしているエアロエッジスポイラー2も風洞実験を繰り返しながらその形状が決まっていったのですが、それと同時にデザイン性も追求した結果、このようなスタイルになりました。
田中:快適性と安全性を左右するベンチレーションで言えば、X-Elevenなどに採用されたV型排出口は換気性能としてはとても素晴らしいものがありました。しかし、最高の性能を発揮する角度に限りがあったのです。また、帽体の突起であることは間違いなく、少ないながらも空気抵抗にはなってしまう。だからX-TWELVEではその点もクリアしておきたかったのです。あらゆる角度で均一な換気性能を実現しながら、X-Elevenと比較すると総吸入量で11.9%、総排出量で10.3%も向上しています。このように、性能を追求する基礎研究を重ねながら、製品としてのデザイン性も両立させていくのは大変な作業でした。X-TWELVEのスタイリッシュな形状は、こうした地道な努力の積み重ねから生まれたものなのです。また、第三者によるヘルメットの取り外しを容易にするE.Q.R.S.(Emergency Quick Release System)も注目していただきたい部分です。緊急時にチークパッドを取り外せば簡単にヘルメットを脱がすことができますが、切迫した状況でも確実な取り外しができるようにX-TWELVEでは内蔵式タブを新設計、より実際的なシステムとしています。もちろん、帽体自体はAIM+(Advanced Integrated Matrix Plus Multi-Fiber)構造のシェルで、JIS規格はもちろん最新のSNELL規格も余裕でクリアしています。
渡辺:X-TWELVEは「プレミアムレーシングフルフェイス」と位置づけられていますが、特に「プレミアム」という部分でこだわった部分を教えてください。
堀本:もともとSHOEIはヘルメットのあらゆる部分にこだわりを持っているメーカーなのです。例えば、内装ひとつとっても、生地素材の柔軟性や伸び、吸水性、速乾性、色などはもちろん、起毛の長さや角度、方向性まで検討します。X-TWELVEで言えば、シールドが閉まるときのフィーリングは高級4輪車の気密性が高いドアをイメージしたもの。だから、クリック感や音、開閉用タブの形状にまでこだわりました。何種類ものエンジニアリングプラスチックやスプリングをテストして、一番心地よいクリック感と音、そして強度と耐久性を実現する素材の組み合わせを追求しました。また、通常はシールドの開閉耐久テストは試験機にかけるのですが、X-TWELVEのシールドは動きが複雑なので通常の試験機では対応できない。それならば、ということで実は品質管理課のスタッフが交代で手動検査をしたのです。1万回を10セット以上、トータルで10万回以上の開閉を人間の手で行いましたから耐久性には自信があります。CW-1シールドも縁がスムーズに面取りされてるのですが、これも微妙な風切音を減らし、操作感を向上させるため。こうした細かい部分まで妥協せず、こだわって開発したのがX-TWELVEなのです。地味なことですが、シェルをひとつ増やして5サイズ設定としているのもプレミアムヘルメットとしてのこだわりです。1サイズ増やすことで、全サイズで適正かつしっかりとしたフィット感が得られるのであれば、多大な労力と資金を投下してでもやる価値があると判断しました。
このように、X-TWELVEはSHOEIのフラッグシップであるだけではなく、スタッフ全員の想いが込められたモデルなのです。開発の着手から完成まで約3年。我々が自信をもって送り出すX-TWELVEを是非手にとって確かめていただきたいです。
トップクラスの実力を誇り、ユーザーからの評価も高いX-Eleven。これを超えるモデルを開発することは並大抵のことではなかったはずだ。
「X-TWELVEはSHOEIのフラッグシップであるだけではなく、スタッフ全員の想いが込められたモデル」だと語る堀本隆行氏。
「性能を追求する基礎研究を重ねながら、製品としてのデザイン性も両立させていくのは大変な作業だった」と語る田中晴雄氏。
「X-TWELVEは、あらゆる部分で最高の性能を発揮することをテーマに開発した完全に新しいモデルです」と語る磯部栄治氏。
約3年もの開発期間を経て完成したX-TWELVE。開発陣の地道な研究開発とプレミアムヘルメットとしてのこだわりが詰め込まれている。
3年近くの開発期間を費やして完成したCW-1シールド。製造用の型は、究極の精度を追求し職人の手作業により磨き込まれる。
ベンチレーション性能は徹底的にブラッシュアップ。各パーツの位置と形状は風洞実験を繰り返すことにより決定された。