レポート:バイクブロス・マガジンズ編集部  写真:磯部孝夫  取材協力:株式会社SHOEI (SHOEI X-TWELVE スペシャルサイト)

ついに発売されたSHOEIの最新フラッグシップ「X-TWELVE」。時速300kmオーバーという極限の世界で磨き上げられた性能が悪かろうはずもないが、その1/3以下の速度で走る我々一般のライダーにとって、X-TWELVEはどのようなメリットをもたらしてくれるのだろうか。今回は約1週間にわたってX-TWELVEを試用、一般道から高速道路、そしてワインディングでテストを行った。このページでは、あくまでもツーリングライダーの立場からインプレッションしてみたい。(レポート:バイクブロス・マガジンズ編集部 渡辺)

シールドを締めた瞬間に周囲のノイズがスッと小さくなる。歩くような速度で走りはじめると、これまで体験してきた多くのヘルメットよりずっと風切音が小さいことに気づく。速度の増加に呼応してヘルメットのビシッとした安定感が増し、疲労感も少ない。一定以上大きくならない風切音は耳障りな周波数がカットされているかのようで、うるさいという感覚は皆無。盛大に吸い込み、そして吐き出しているという印象のベンチレーションによって、ヘルメット内部が閉ざされた空間であることを忘れそうになる。なんという性能の高さ。これ以上、ヘルメットに何を望むというのか…。

 

上記はSHOEIの最新フラッグシップモデル、X-TWELVEのインプレッションではなく、その前作にあたるX-Elevenのテスト直後の感想である。実は今回、X-ElevenとX-TWELVEを被り比べるチャンスに恵まれたのだ。この段階ではまだ最新作のX-TWELVEは未体験だったが、前作のX-Elevenにしてこのように感じてしまったのだから、果たしてX-TWELVEに進化の「のりしろ」は残されているのか…。正直、少し心配になってしまった。そのモデル名から分かるように、X-TWELVEはSHOEIが「プレミアムレーシングフルフェイス」と銘打ったレース対応のフラッグシップモデルである。時速300kmオーバーという極限の世界で鍛えられた性能が悪かろうはずもないが、果たしてそれが私のようなツーリングライダーにもメリットをもたらしてくれるのか。それを検証することが今回のテストの目的だ。

走り始めるとすぐにそのホールド感の良さが実感できる。内装全体が均一に密着し、頭部とヘルメットの一体感が強い。

走り始めるとすぐにそのホールド感の良さが実感できる。内装全体が均一に密着し、頭部とヘルメットの一体感が強い。

レースからのフィードバックにより外付けとされた口元のロアベンチレーション。操作感は良好で、手探りでも開閉はスムーズだ。

レースからのフィードバックにより外付けとされた口元のロアベンチレーション。操作感は良好で、手探りでも開閉はスムーズだ。

頭にピッタリとフィットするサイズを選んでも着脱しやすいのがSHOEIヘルメットに共通する美点だが、X-TWELVEを被ると内装全体で頭部がしっかりと均一にホールドされ、これまで以上にフィット感が向上していることが分かる。走行に備えてシールドを下げると、やや強めのクリック感をもたらす部材の最後の山を乗り越えた瞬間にシールドがピシッと帽体の縁ゴムに密着した。ヘルメット内部はまるで気密室のような静寂に包まれ、10メートルも走らないうちに静粛性はX-Elevenを上回ることを確信した。外部の音を遮断しているためではなくて、風切音が効果的に抑制されているためにそう感じるのだ。それゆえに、バイクが発するさまざまな音が相対的にクリアとなる。エンジンやチェーンが発するノイズ、リアタイヤが小石を弾いた音などが、手に取るように分かる。鋭い人なら、愛車の調子や路面状況も把握しやすくなるに違いない。

 

意外だったのはベンチレーションの効き具合だ。X-TWELVEの換気性能は、それこそ歩くような速度から発揮されるが、荒々しいほど効いていたX-Elevenのベンチレーションとは明らかに印象が異なる。外気がどのインレットから吸入され、どのアウトレットから排出されているのか、それが実感できるほど完璧に整流されているのだ。例えば、口元から吸入された外気はシールド内面に沿って流れて、新設されたサイドエアアウトレットなどから整然と排出される。顔面で空気がざわつき、眼が乾燥するような不快感もない。強力かつ整然とした空気の流れが隅々まで行き渡り、ヘルメット内部は常にドライ。極稀に発生するシールドの微妙な曇りですら、瞬時に解消されてしまう。さらに、可変軸WアクションのQ.R.S.A.(Quick Release Self Adjusting)システムとCW-1シールドが可能とした特大のPinlockシートを装着すれば、シールドはまず曇らない。つい口で息をしてしまう癖があるライダーにとってはなんとも嬉しい装備と言えるだろう。また、X-Elevenで前傾姿勢をとるとPinlockシート縁のシリコン製シールが視界にかかることがあったが、X-TWELVEではそれが完璧に解消されている。見たいエリアを常に直視できることがツーリングにおいてどれほど快適かは言うまでもないだろう。

頭部のエアインテークは全て左右連動で、その開閉方法も統一されている。状況に応じてX-TWELVEの換気性能を自在に操れる。

頭部のエアインテークは全て左右連動で、その開閉方法も統一されている。状況に応じてX-TWELVEの換気性能を自在に操れる。

限界まで拡大されたPinlockシート。前傾姿勢をとったとしても視界にシリコン製シールの縁が掛かることがない。

限界まで拡大されたPinlockシート。前傾姿勢をとったとしても視界にシリコン製シールの縁が掛かることがない。

ツーリングライダーがX-TWELVEの進化をもっとも実感できるのは高速道路上だと思う。ランプを駆け上がり本線に合流。多くのヘルメットでは加速するにつれてノイズレベルが上がっていくのに対して、X-TWELVEの静粛性は一定のままだ。さらに、速度が上がれば上がるほどヘルメットのスタビリティが向上し、外乱にも強くなるのが実感できる。例えば、高速道路上で大型トラックの横をフル加速で追い越しながら通過するような場合、予想を超える空気の乱流を受けて驚いたという経験はないだろうか。このような場合、時としてヘルメットも大きな外乱を受け、ライダーは必要以上に身構えてしまうものだ。ところが、X-TWELVEはこうした状況もで極めて安定感が高い。切り裂いたり抵抗したりというよりは、常に空気の流れを上手くいなしているという感覚が強く、それゆえに頸部の疲れも少ない。全サイズで適正なフィット感を得るために帽体を5サイズ設定とするほどこだわったとしているが、これによるホールド感の高さも安定性向上に一役買っているのは明らかだ。ベンチレーション性能がヘルメットのポジションに影響されにくいのもツーリングライダーにはメリットと言えるだろう。X-Elevenの場合はヘルメットが前傾している場合とそうでない場合の違いが明確にわかるほどだったが、X-TWELVEはアップライトポジションであってもベンチレーションは常に均一な性能を発揮してくれる。大型ツアラーにも十分マッチすると実感した。

 

レースという過酷な世界を想定して開発されたX-TWELVEだが、まるで我々ツーリングライダーのために作られたかのような快適性と高級感。これまで経験したいかなるフルフェイスよりも優れている。私ですらそう感じたのだから、多くのライダーもそのメリットを享受できると思う。「スタッフ全員の想いが込められたモデルです」というSHOEI開発陣の言葉が頭をよぎった。(バイクブロス・マガジンズ編集部 渡辺)

前後にスライドしつつ開閉するシールド。この構造により気密性を向上させるとともにPinlockシートの面積を拡大した。

前後にスライドしつつ開閉するシールド。この構造により気密性を向上させるとともにPinlockシートの面積を拡大した。

エアスクープ3も左右連動。最大の吸気効率を追求しながらも、空気抵抗とならない形状を風洞実験により決定。

エアスクープ3も左右連動。最大の吸気効率を追求しながらも、空気抵抗とならない形状を風洞実験により決定。