満足している点
Monster696(2010)から796(2013)への乗り換えです。空冷Monsterを新車で手に入れられる、おそらく最後のチャンスだったので、思い切って購入しました。ディーラーで聞いたところ696から796に乗り換えた人は初めてとのことで、オーナーとして両方に接している珍しいケースだと思うので、中古で2008~2014のMonster696または796を検討する方の参考になればと思い、両車の比較を中心にレビューします。
796には大満足で、個人的に696で僅かに物足りないと感じていた部分が全て解消されて、自分には796がフィットしました。ただ、客観的には696ならではの美点もあり、どちらを選ぶか非常に悩ましいところです。一言で言うと696は「排気量にゆとりのある力感豊かな中型車」で、796は「軽量コンパクトで排気量ミニマムの大型車」という感じです。要素ごとの差は僅かなのですが、オーナーとして接した全体感としては、その僅かの差の中に中型車と大型車のちょうどスレッシュがある感じがします。
まずハンドリングですが、車高とタイヤサイズの違いで両者の乗り味は少し違います。車高が30mmほど高く車両姿勢がやや前傾していることもあり、前後のバランス、長さと高さの関係も796の方が普通の感じ。796はリアのリバウンドストロークがあるので、前方向へのピッチングがありますが、むしろ自然な感じです。タイヤが太いので、安定感と軽快感のバランスが取れており、挙動の俊敏さは常識的な範囲、696ほどのシャープさはありません。乗り心地も796の方が若干ですが良くて、ラグジュアリー寄りです。
696はリアのイニシャルを1回転くらい締めたくなるので、結果としてリバウンドストロークを殆んど確保できず、前方向へのピッチングを利用しづらいです。代わりに、ひらひらとした軽快さ、カミソリのような切れ味が際立っています。横へのリーンを主体にコーナリングを組み立てる感じで、必要最小の制動でコーナーに進入する小型車的な走りになり、それが696の性格を決める大きな要素になっています。前後両輪で旋回を開始して、早目にアクセルを開いてリアステアに持ち込む感じのコーナリングは、凄く楽しいし上達への糸口にもなると思います。696がリファレンスバイクと言われるのも納得できます。鋭い切れ味を求めるなら696、普通のバランスを求めるなら796だと思います。
不満な点
696でも796でも不満と言うほどの不満は、まずありません。DUCATIならではの官能的な満足感に包まれます。比較論を続けます。移動目的で首都高を走ったり、ソロツーリングなどで何気なく走った場合、ややゆっくりになるのは796の方です。696の方は「つい飛ばしたくなる」性格で、気づくとアクセルを開け気味に元気よく走ってしまっています。796は「のんびり走っても気持ちいい」感じがあり、気づくと幾分まったり走っていたりします。どっちも至高と思えるほどの気持ち良さですが、気持ちいいツボが少し違っています。
この違いは、上述のハンドリングと、もうひとつギア比が大きな要因になっています。696でもマルチシリンダー車から乗り換えるとギア比が高いと感じますが、796はそれよりもさらに15%もファイナルが高いです。排気量アップに伴うトルクアップ(ちょうど15%くらいアップしてる)を全てギア比のアップに充てることで、796は大型車っぽい性格になっています。ギヤ比はエンジンの性格にマッチしていてチグハグには感じませんが、力感という意味ではトルクアップがギヤ比アップと相殺する感じで、法定速度内で普通に走ったときの「速さ感」は両車でほぼ同じくらいの印象です(十分に速いですが)。
またエンジンの低回転域が使えない感じについても、概ね同程度です。どちらもノーマル状態だと3000回転未満はスナッチングが発生して、ほぼ使えないです。内圧コントロールバルブを追加すると、空冷っぽいガシャガシャする情緒が薄れる(かつトルク変動に伴う振動は増える)代わりに、2500回転くらい(低いギアでは2000回転くらい)まで何とか使えるようになります。そして796も幾分か回したくなる性格になります。
796のノーマル状態は概ね90km/hくらいにならないとトップに入れられません。なので、首都高とか、郊外の道路などを走る場合に、頻繁なギアチェンジが必要になるのは、696よりもむしろ796の方です。のんびり走れる感じの割に、スピードがちょっと落ちるともうシフトダウンが必要になるのが、796の独特のマニアックさを感じさせる部分です。その代わり発進時には2速か3速までで十分に巡航スピードに達するので、伸びやかな印象になります。なおゼロ発進で半クラッチにやや気を使う感じについては、両者同程度です。「ちょっと気を使うけど、慣れれば問題ない」という程度かと思います。
これから購入する人へのアドバイス
まず足つき性を気にする場合は、696だと思います。「大差ない」という記事もありますが、所有してみるとこの3cmは大差に感じます。どっちか悩む場合は、両方に跨ってみた方が良いです。それから中級者くらいの方が上達を目指す場合、その道具としては696の方が優れているかもしれません。RIDERS_CLUBの言うリファレンスバイク的な性格です。普通に、楽に乗りたい場合は、796だと思います。696は軽快で俊敏、796は少しゆったりしているので、796の方がパワーがあるからスポーティだろうと決めつけるのは誤解です。
燃費は思ったよりも違いました。車重が大差ないし、ギア比も高いから、燃費も大差ないだろうと想像したのですが、15%以上の差がありました。ガソリン代が気になるほどではないですが、タンク容量が少ないので、航続距離とか頻繁な給油の面倒くささの面で、796はギリギリの感じです。給油口の首元まで満タンにして、警告灯までが200kmくらいです(リザーブがたぶん40kmくらい)。
あと、ブレーキの効きですが、これは年式の違いによるものか車種の違いによるものか不明ですが、696(2010)と796(2013)のノーマルパッドは、まるで別物の印象です。796は普通に効きますが、696の方は中上級者には「効かない」と感じるレベルです。マスターとキャリパーは共通なので、パッドの違いだと思います。スポーティに走るには、フロントのパッド交換がほぼ必須だと思います。796の方はそのままで不安なく走れます。696も高年式のABSの付きは良くなってるかもしれません。
僕自身は、Monster696が初めてのDUCATIで、それまでDUCATIには興味もなかったのですが、696ですっかりMonsterと空冷デスモの虜になり、796の最後の新車(新古)をまた衝動買いしてしまった次第です。DUCATIの水冷に乗ったことがないまま言うのでテキトーな発言ですが「Monsterは空冷でしょ」というのが個人的な直感です。軽量でスリムな車体と、空冷エンジンならではの情緒こそが、Monsterの世界観なんじゃないかなと。水冷マルチばかり乗り継いで来たような方にこそ、空冷Monsterをお奨めします。
(2017追記)慣らしが進んだら燃費が少し良くなり、タイヤをPilot Power3に替えたら、さらに燃費が1割以上良くなりました。今は普段乗りで21~22キロ/リットルくらい走ります。Monseter797が発売されてもなお796は魅力的だと思います。
投稿者:オータニ